○タウゼロを読む

bqsfgame2015-04-24

ポール・アンダースン星雲賞受賞作。
原作は1970年、しかし翻訳されて星雲賞を受賞したのは実に93年と言う。正直に言うが、90年代になってからアンダースンの新作が訳されても個人的には食指が動かなかった。
アンダースンは、「タイムパトロール」、「天翔ける十字軍」、「脳波」、「地球人のお荷物」などを読んだが、良き中堅作家という印象。時代に残るにはインパクトに欠けるが、決して駄作を書く人でもない。
本作は、ラムスクープジェットで30光年あまりの植民の旅に飛び立った宇宙船の物語。途中で濃密な物質雲に衝突してブレーキを損傷。修理のためにはシールドを下して船外作業する必要があるが、星間物質が皆無に近いところでないとできない。そのため、銀河間どころか銀河集団間のレベルの空間へ出る必要が。しかし、今の速度でそんな旅をしていたらクルーは死滅してしまう。仕方がないので、逆に加速してウラシマ効果、時定数タウの極小化を始める。で、タウがどんどんゼロに近づいていく暴走宇宙船の物語となる。
SFらしい宇宙SFであり、NW全盛の70年代にあって、オールディーファンの喝采を浴びたであろうことは想像に難くない。
一方で、この辺の話はSFマガジンに石原先生が連載していた「銀河旅行」のそのままなので、そこに個人的には新味は感じなかった。
また、密閉空間での科学者群像劇であるのだが、そういうものを書かせたら当代一のKSロビンスンと比べると、ボリューム不足な感じは否めない。アンダースンもそれなりに健闘しているとは思うのだが、320ページで書ききれるはずのない題材だと思う。その一方で、この300ページくらいというのが、クラシカルな普通の長編で心地よく読める長さだというのも事実。
星雲賞を取るほどかどうかは好み次第と思うが、前年が「マッカンドルー航宙記」であることを考えると、日本のSFファンがSFらしいSFに飢餓感のあった時代にマッチしたのかなと思う。
アンダースンは、たいへん息の長い作家で、この後も74年の「焦熱期」、78年の「アーヴァタール」を経て、89年には「百万年の船」という大作を発表して周囲を驚かせた。ここらへん全部訳出されているので、出版社的にはセールスが見込める固い作家なのだろう。
「無限軌道」と「焦熱期」は、世評を聞くと読んでみたいです。ところが不思議なことに前者はハヤカワSFシリーズから文庫化されなかった作品の一つという‥(^^;