○吟遊詩人トーマスを読む

bqsfgame2017-02-15

世界幻想文学大賞の受賞作。
と言うことで、大昔に買い押えておいたものをようやく読むことができました。
詩人トーマスは、カシュナーの創作ではなく中世の伝承の存在。それをモチーフにして長編一冊にまとめたものです。
視点人物が4人いて、それぞれの視点からの独立した4章からなります。トーマス本人、その妻となるエルスペス、二人を見守る老夫婦の4人です。
類まれなる詩人トーマスが、どこかへ7年間行方不明になり、戻ってきて許嫁のエルスペスと結婚して子供に恵まれるというお話しです。冒険譚でも、怪奇譚でもなく、詩人の不思議な日常を描く淡々としたお話しです。
解説にもありますが、ある視点人物から見て謎の空白になっている部分が、他の人物から見て語られます。しかし、それによって全体像のクリアネスが上がるかというと、そういう訳でもなく、全体に曖昧模糊とした印象が最後まで拭えません。
トーマスの不在の7年間はエルフランドへ行っていたというお話しなので、まぎれもないファンタジーですが、別にドラゴンを退治したり、英雄になったりするお話しではありません。
文体は凝っていて読みにくく、リーダビリティは低目と感じました。それが長年の放置の原因です。その一方で、(カードを含めて)原文には熱狂的な支持者がいるようです。
再読することはないと思うのですが、非常に凝った創作物であることは間違いなく、話しの種にはなります。
ファンタジーと言うジャンルの一つの可能性を顕在化した力作であることは確かです。