○ビジネス契約書の起案・検討のしかたを読む

bqsfgame2005-07-21

だいぶん掛かってようやく眺め終わった。
仕事柄、契約書には然程の縁はなく、あるのは共同開発契約と技術ライセンス契約くらいだったのだが、今年はアメリカの会社と大きなビジネス契約交渉の場に立つことになって勉強のために。
最初は英文契約書の書き方のような本を探していたのだが、アマゾンでこれを見掛けて方針変更。結果的には大正解だったと思う。
本書は「欧米人は何のために契約書を結ぶのか? そのことを理解した上で日本人は契約書のどういう部分に注意するべきか?」を説く本。英語の話しなどなく、契約の理念や争点の話しに的を絞っている。これは理念の書であって、単なる英語ツール本ではない。
端的に言えば、日本人は契約書に「問題が起こったときには双方とも誠意を持って話し合うこと」と書いて事足れりと思うが、これは欧米ではナンセンス。「後で問題が起こってからでは利害が衝突して解決しがたくなることを、事前に取り決めておいてすっきりと解決できるように具体的に決めておくのが契約の役目」ということが全編を通じての主題。
したがって、「暗黙の了解」や「紳士協定」などではなく、「こういうときにはこうする」、「こうするというのは具体的にかくかくしかじかということである」という風に、日本人的にはガリガリ、ギスギスするように感じられるところまで詰めて置かないと意味がないというのである。
そもそも紳士協定で今後も物事が進められると予測できるなら、紳士協定さえあれば良い訳で契約書など要らないというのは至言。そういう意味では日本では長年の商取引に基づいて交わされる口頭の約束で物事がスムーズに進むことが一つの社会的な財産とも言える。そうした場に契約書を形だけ持ち込もうとするから、契約書の本来の理念が日本では根付かないのだろう。
とは言え、実際にアメリカの会社と契約交渉の場に立って見て思うのは、欧米だからといって紳士協定が機能しないという訳ではなく、むしろ日本の今時の会社より律儀な会社もあるということ。だが、それでも将来、本当に互いに譲れない争点となりそうなことには、律儀だからこそきっちりと契約を結ぼうとする。それは契約交渉で少しでも自分を有利にということではなく、長く付き合っていくためにはむしろ本当に深刻な問題は切迫する前に決めてある方が安心だからということだとわかってきた。
アメリカの訴訟社会などを見ていると契約にネガティブなイメージも持っていたが、そういうことではなく多民族国家で暗黙の了解が成立しない国では明示的な了解を取り付けておくことが後で禍根を残さない生活の必要だということなのだろう。