☆航路を読む

bqsfgame2005-09-28

亡くなられたKOSさんと思えば最後に蒲田で飲んだときに、「最近、面白いSFはないですか?」と尋ねたところ帰ってきた答えが「航路」だった。ハードカバー版が発売になってそれほど経っていなかった頃のことではないかと思う。
それを聞いてしばらく探してヤフオクでハードカバー版を入手したのだが、なにせ分厚い。しかもハードカバーとあっては電車の中とかではなかなか読めそうな気がせずずっと積読になっていた。今回、海外出張があったので国際線の友にと思って急遽ブックオフに行って発売になっていた文庫版の古本を入手してきて、ついに読むことにした。
上下巻1200ページを悠に越す大作だが、スタートを上手く乗り切ると第二部の終わりまではアッという間だった。臨死体験を題材にした病院内で展開される人物劇と学術実験。およそSFとしては地味極まりない道具立てなのだが、これが実にサスペンスフル。ケイト・ウィルヘルムの「クルーイストン実験」もそう言えば地味だが非常にサスペンスフルで、SFとしてはずっと派手なことが起こる「鳥の歌いまは絶え」よりも手に汗握ったのを思い出した。
要はリアリティのある人物の書き込みであり、その人物たちの迫真のドラマなのだろう。SFというジャンルに囚われることなく傑作と呼ぶにふさわしい素晴らしい出来だと思う。こう言っては失礼だが「リンカーンの夢」では南北戦争ものということもあって期待して手に取ったが、途中まで読んでかったるくて読みきれなかった。題材や切口は非常に似ている「航路」だが、書き込みの筆致が段違いである。こんなに凄い作家になるとは思いもよらなかった。
第二部の終わりでは信じられないことが起こり、第三部は呆然とする中、なかなか読み進むことができなかった。個人的な意見としては第三部がなければ物語が成立していないのはわかるのだが、読書体験として凄いと思ったのは第二部までだった。
ラブストーリーは恋愛が成就するまで、サスペンスは謎が解けるまでが勝負で、その後にストーリーが決着するところまでは余分な感じになってしまうのは止むを得ないのだろうか。
その部分が少し長すぎるところがわたしとしては減点なのですぐに再読するとかオールタイムベストワンとかまでは思い入れられなかった。
しかし、今年読んだ本の中で「消えた少年たち」、「少年時代」とともにベリーベストであることは間違いない。