○終わりなき索敵:上下を読む

bqsfgame2006-01-14

ゆっくりと大事に読み進んできた航空宇宙軍史も、ついにフィナーレ。
最後は二分冊の大作長編。本作品は、これまでの航空宇宙軍史とは、かなり違った要素を盛り込んであるという気がした。航空宇宙軍史の面白さを私見で言えば、テクノロジーSFとしての魅力と、戦記物としての魅力を併せ持ったストイックな凝縮された作品群と思っていた。
ところが、本作品はこれまでのもっぱらの舞台だった外惑星動乱まわりのエピソードを大きく越えて、深宇宙探索、航空宇宙軍と汎銀河連合、超光速航行による過去へのメッセージ送信による歴史の改変といったところが機軸として盛り込まれている。
結果として、人類全体の未来やヴィジョンや輪廻と言った大きなエピソードが語られ、その中での断片的な人々のドラマがいくつも関連させて多重多軸的に描かれる。解説の最後にも出てくるが、読んでいて手塚治虫の「火の鳥」シリーズを強く連想させられた。
その時代、その環境の中で人々は最善を尽くしてあがき続けるが、その一方で人類全体の宿命のようなものに運命付けられていて、その手を逃れることはできない‥と言った感じがするところが非常に良く似ている。
結果として、これまでの航空宇宙軍史作品群とはエンターテイメントとして性質が大きく違うので好みが分かれるような気がした。個人的には、これはこれで凄い作品だと思うのだが、エンジニア本業の身としては従来のテクノロジーSF的なものの方を期待していたので面食らってしまった。
テクノロジーSF的な部分としては、戦士ダムダリが雨季の機動翼エンジンの問題を解決するところは共感して読んだ。自身の仕事で全く同じエピソードがあって、製品の不良部分を解消するプロジェクトを任されたとき、前任者は成形機の機械的な問題から来ると決め付けて数年来取り組んでいたのだが、実は原材料起因で成形プロセスを経ることで炙り出しのようにそれが発現してくるということがわかったことがあった。人は視野が狭くなると問題を解決できなくなってしまうというのは結構普遍的なのかもしれない。
ゲームな話しとしては、最後に汎銀河連合が過去へとメッセージを送る技術の基盤となる超光速技術を航空宇宙軍を打倒した後には放棄することで歴史を確定するというのは、まるっきりティムジム・プリズム社の「タイムエージェント」の設定勝利条件そのものだと思った。思えばアシモフの「永遠の終わり」も銀河帝国という命運を選び取って確定するために「永遠」という歴史修整機構を放棄する話しなので同じ原理かも知れない。歴史改変ものの収束オチとしては案外、洋の東西を問わず共通する結論なのかも。