○内側の世界を読む

bqsfgame2006-01-25

いわゆるニューシルヴァーバーグの一作。サンリオSF文庫の末期に出版された。
巻末の解説で改めて知ったのだがニューシルヴァーバーグは、1967年の「いばらの旅路」から1975年の「不老不死プロジェクト」まで8年間しか活動しなかった。
その後はご存知、「ヴァレンタイン卿の城」で復活し、アシモフ短編の長編化もしたりしている。復活後の作品もさすがの筆力で素晴らしく読ませるのだが、クリエイティビティという意味では、やはりニューシルヴァーバーグ時代が抜群だと思う。
本作品は24世紀、1棟で80万人を越す人が住むという都市体を舞台にしている。似たような設定は、バラードの「ハイライズ」や、ディッシュの「334」でもある。バラードのそれは新たな破滅の舞台を巨大高層ビルに求めたという印象だが、「334」は鬱屈した内世界を描いてかなりの力技だった‥と今までは思っていた。
しかし、「内側の世界」はさらに力技。こうした都市体に住むように人間は変容した、もしくは変容したことにしなければとても住めなかった。その変容をリアリティを持って徹底的に描き出すことにストーリーのほとんどが費やされる。プライバシーのない社会、野放図な人口増を是とする道徳、これらと関連してセックスの対象は制限されない文化が生まれている。こうした社会に住む様々な人間を順に描き出すことで、異質な社会や文化を創造してしまっている。これを読んでしまうと「ハイライズ」も「334」も想像力不足だったのかとさえ見えてしまう。
と言うことで途中までは凄い傑作かもと思って読んでいたのだが、最後は期待したほどのインパクトがなかった。都市体を出る冒険を選らんだ人間が出て、その旅で意外な展開があるかと思ったのだが呆気なく挫折して処分されてしまう。最後はもっとも都市体に適応していたかに見えた人物もまた挫折するという結末になっている。そして、それでも都市体は昨日と同じ今日を迎える‥。
シルヴァーバーグのクリエイティビティと筆力をひしひしと感じさせてもらって読んでいて楽しかった。ただ、トータルの出来栄えとしては、サンリオから刊行された分で言えば、「内死」が白眉だと思う。次が本作、そして「確率人間」と続き、個人的には「大地への下降」が読みにくかったので印象が悪いだろうか。