ゲームレビュー:サイバーノート:ネットラン

bqsfgame2006-03-08

「サイバーノート」の肝はネットランである。
此処のところのゲームシステムがシャープで他に類を見ないのである。一番、近いのは軍人将棋やストラテゴだろう。
ネットランナー側はランダムに入手したプログラムから任意のものを持参してネットに侵入する。ネット内にはゴーストという形で本人が侵入するのだが、持参するプログラムには3種類がある。一つはゴーストが持参して歩かねばならないパッシブプログラム、次にプログラムが単独でネット内を動き回れるアクティブプログラム、最後にアクティブプログラムの一種なのだが敵に察知されず攻撃を受けにくいステルスプログラムがある。
タイプとは別にプログラムの機能があって、他のプログラムの正体を遠距離から探る探知プログラム、同じアドレスの敵のパッシブプログラムを破壊するプログラム、同様に同じアドレスの敵のアクティブプログラムを破壊するプログラム、同じアドレスの敵の全てのタイプのプログラムを破壊するプログラムがある。
たとえば、「パスワード」は、単独では移動しないパッシブプログラムで、敵のパッシブプログラムを破壊することができる。「トロイの木馬」は、単独で動き回り敵の攻撃を受けにくいステルスプログラムでNSAとしては天敵なのだが、攻撃能力は敵のパッシブプログラムに限定されている。「ウィルス」は、単独で動けるが敵にも発見され攻撃されやすいアクティブプログラムで、攻撃能力は敵のアクティブプログラムを対象としている。
とまぁ、そんな訳で様々な特性のプログラムがあり、これを組み合わせて持ってネットランする訳である。
同様にNSA側はネットワーク内に秘密裏に配置した様々なプログラムや貴重なデータで待ち受けている。
このゲームの戦闘システムで凄いのは、同じアドレスになった敵味方のプログラムは一斉に開けて、全てのプログラムの全てのプログラムに対する攻撃を同時に解決することである。
たとえば、ネットランナーの「ウィルス」が、NSAの「VRミサイル」というアクティブプログラムキラーであるアクティブプログラムと遭遇すると両者は相撃ちになってしまう。このときに同じアドレスにNSAがパッシブプログラムであるデータファイルを置いてあっても「ウィルス」には影響されないので、開示はされるが破壊はされないという具合である。
つまり、戦力があって判定表に当て嵌めてダイスを振ったりはしない。AとBが遭遇するとどうなるかは一意に決定されているのである。ここが軍人将棋と似ている所以である。動けないコマがあるところも、軍人将棋の地雷に似ているかも知れない。しかし、複数のコマがスタックし得るので話しはずっと複雑である。また、相撃ちが発生しやすいことも大きな違いで、強いプログラムは強いプログラムを持って相殺されることになる。このときに、NSAはコントロールファイルと呼ばれるデータファイルがネット上に健在な内は失ったプログラムの補給ができるのに対し、ネットランナーは再びリアルワールドで物資調達に励まねばならず、また手に入るものはランダムなのだ。
とは言ってもNSA側にも弱点があり、リアルワールドのネットランナーを発見して仕留めない限りはネットランを根絶できないし、守るべきデータファイルが大量にあるのも悩みの種である。一旦、データファイルが失われだすと、それによるネットランナー側への特典の付与で状況はどんどん悪化していくということもある。また、NSA側はネットランを検知しないとネット内で対応した反撃活動ができないという問題もあり、ある程度は相手に入ってもらわないと何もできないということもある。このために使われるのが、「アイス」という障壁型のパッシブプログラムで、ネットランを止めて逆探知ネットランナーをリアルワールドで捕捉でき、ネット内でのNSAの活動も可能にする。
「アイス」が出てくると同時にネットランナーの中で最高のネットラン能力を持つコマの名前がギブソンなのは、このゲームが極めて直接的に「ニューロマンサー」の影響下にあるということだろう。
文章ばかりの説明でどこまで魅力が伝わるかは疑問だが、シャープで独創的で、そしてなによりサイバーパンクのシミュレーションと呼ぶにふさわしいゲームシステムを持つ傑作ゲームである。
弱小雑誌の付録ゲームだったとは言え、著名なデザイナーであるミランダの傑作が、さして評価されていないのは極めて残念なことだ。
ただ、理由もあってルールが独創的過ぎてとっつきが悪い。雑誌の付録ゲームではありがちだが、ルール記述の完成度にも多少の難がある。また、ブラインドゲームなので相手のリヴォークを見つけられないため、両者がルールを良く理解していないとゲームにならない。しかも、両者のできることは極端に違っており、相手が何をできるかも理解していないと作戦も立たなければ面白くもない。非常に敷居が高い要素をいくつか併せ持ってしまっているのだ。
だが、繰り返して言うが本作はミランダの会心の傑作の一つである。SFゲーマーならプレイ必須、そうでなくともミランダのゲームが好きならプレイしてみて欲しい一作である。