スタニスワフ・レムの実質的なデビュー長編と言われる。1951年の作品。完訳版がハヤカワ文庫で出たのは、1981年。当時、既に執筆から30年を経て、宇宙開発の進展などの技術発展によりテクノロジー描写は陳腐化した部分があったという。
そこからさらに25年、執筆から55年を経て読むと、正に古めかしい。ジュール・ベルヌとまではいかないが、宇宙船の仕組を説明するくだりは時代物の風格さえある。また、政治体制に関する描写も55年間の史実を知っている者には却って感慨深く読めてしまうだろう。いろいろな意味で55年間という歳月の重みを感じさせる。
その一方で紛れもなくレムの作品であり、解説にもあるのだが後年のレムの傑作群の片鱗を感じさせる要素が随所に顔を見せる。この作品自体はツングース隕石から説き起こし、未知の文明の痕跡からの解読、そして危機を克服するための金星への旅、そこでの達成されなかった遭遇と繋がり、きちんとストーリーは完結し謎も残らない。その意味では、「ソラリス」や「無敵号」のような謎を残した余韻はなくさっぱりしたものだ。また「星からの帰還」に見られるような断絶への厳しい認識も、此処では断絶はあるのだが遭遇さえしなかったので厳しく提示されたりはしない。
いろいろな意味で処女長編らしい作品で、若さや未成熟な点を感じさせるが、その一方でレムの出発点としてあるべきものは揃っているように思う。改めて大きな孤高の存在を失ったことを痛感する。ご冥福をお祈りしたい。