×クローム襲撃を読む

bqsfgame2006-05-22

サイバーパンクの中心人物、ウィリアム・ギブスンの衝撃的な第一短編集‥と世間では言われている。
この本や第一長編「ニューロマンサー」が出た頃は、サイバーパンクは最先端の流行で、これをつまらないとか言えないような雰囲気さえあった‥(^_^; しかし、個人的には丁度この頃を境にSFをまったく読まなくなったのだが、その直接の要因は社会人になって時間がなくなったことと思っていたのだが、今回、ギブスンとスターリングを読んでサイバーパンクがつまらなかったからというのも大きかった気がする。これにもう一つの少し遅れてきたスチームパンクのムーブメントとも波長が合わず、ディック記念賞の若手とも波長が合わず、要は読みたいSFがなくなってしまい失望したと言うの大きかったことを思い出した。具体的な本の名前で言うと、「ニューロマンサー」、「カウントゼロ」、「スキズマトリックス」、「ホムンクルス」、「ドクターアダー」などと言ったところだろうか。
今回、「蝉の女王」を読んでスターリングは再評価できた。しかし、「クローム襲撃」を読んだ感想としてはギブスンはやはり個人的には全くダメだと思った。良く言えばスタイリッシュな文体と鮮烈なガジェットは、読みにくくて具体的なイメージが湧きにくくて読み進むのが辛いばかりだった。
比較的読みやすかったのは、「ふさわしい連中」、「赤い星、冬の軌道」、「ドッグファイト」、「クローム襲撃」。最後の表題作以外は本書に収められた3つある共作。結論としてはギブスン単独の作品は全滅に近いと思った。余程、個人的には波長が合わないのだろう。
「ふさわしい連中」はジョン・シャーリイの共作で、夜の街にふさわしい奇怪な連中の正体を追うミステリータッチの作品。これは面白い。
「赤い星、冬の軌道」はスターリングの共作。米ソ冷戦が史実と逆の結末に至った後のオルタネート近未来もの。宇宙開発の独占的実施者となったソヴィエトも宇宙から撤退するというシチュエーションの中、ソーラーバルーンからヒッピー的に宇宙に出てくるカリフォルニアンたちの元気の良さで明るいエンディングを迎える。
ドッグファイト」はマイケル・スワンウィックとの共作。ドッグファイトの対戦ゲームを巡るストーリー。今となってはありがちなネタの作品に見えてしまう。ただ描写の切れ味は良くかなり読ませる。スワンウィックの力量か?
ギブスン単独の作品では、「記憶屋ジョニイ」、「ニューローズホテル」なども並んでいるが、「クローム襲撃」も含めてスタイルやガジェットの尖鋭さばかりを追っていて今になっても通じるような普遍的な読み応えには欠けるように思う。
私見だが、確かにサイバーパンクという舞台や様式を生んだのは大きな功績だが、それを追体験してインパクトを感じたのはギブスンの小説ではなく、「ネットランナー」や、「サイバーノート」と言ったゲームの方が痛烈だったと思う。サイバーパンクにはゲーム的な世界観があり、システマティックなテクニカルな要素が感じられるが、それが良く表現できるのは小説ではなくゲームだったということだろうか。