○螺旋の月[上、下]を読む

bqsfgame2006-07-12

宝石泥棒Ⅱの副題を持つ山田正紀の長編。
ザックリと言えば、宝石泥棒の世界のジローの物語の続編に、「神狩り」以来の人間が叶うはずのない神と戦うことになる現代人、次郎の物語を重ね合わせて最後にリンクさせた新機軸。
ということで、言って見れば山田正紀の傑作2タイプのハイブリッドであり、設定を聞くと大いに期待させる。ただ、読み終えた感想としては、「悪くはないと思うが期待したほどでもない」というところだろうか。先に読んだ「エイダ」あたりは自己韜晦が鬱陶しいのを通り越して腹立たしいほどだったが、それと比べれば遥かに良かった。しかし、直前に読んだ「宝石泥棒」が意図通りに一定の完成を見ていたのと比べると、かなり完成度は低い印象を受ける。
北のウッタラクラで死の神、窮奇と出会い、東のブールヴァヴィディーハで流れの神、渾沌と触れ合う。西のアドラヴィデーハで時間の神、トウテツを倒し、最後に南のジカンブドヴィーハでジローと次郎は互いを人類の命運を担う敵、トウコツとして戦うことになる。
これにプロローグとエピローグが付いて、人類滅亡後の地球で軟体動物から進化した後継生物が想像力を持って月を取り返すのである。
手塚治虫の「火の鳥」を思わせる部分、バリントン・ベイリーの奇想を思わせる部分、そしてもちろん「宝石泥棒」を思わせる部分、「神」シリーズを思わせる部分など盛り沢山。面白い部分も随所にある。惜しむらくはそれが全体の絵としてまとまりきっていない気がする。
後は「地球精神分析記録」もそうだったが、エピソード間のバランスはかなり崩れていて、東はひどくあっさりしていて物足りないし、西はしつこいくらいで読み辛かった。「宝石泥棒」本編はどちらかというとコンテンツの割にはあっさりめだったのとは、かなり対照的かも知れない。
この作品を「山田作品の最高傑作」とする人がいるのは個人的には理解しにくいのだが、山田作品の系譜の中で一つの大きな意味を持つ実験作品であることは同意して良いと思う。その意味では文庫収録されて読まれる機会が与えられるべきだと思う。