全体の感想

そうした問題点はあるものの全体としてはなかなか良いゲームだと思った。
「ソードオブローマ」と比較すると話しがしやすいと思うのだが、カードドリブンである「ソードオブローマ」は史実の細かなエピソードをイベントカードとして盛り込むことができる。これは両刃の剣で、政治・経済的な要素をウォーゲームに反映させることや、普通のシステムで再現しにくい特殊なイベントを盛り込める利点がある。その一方で細部に囚われ、全体像の反映という観点が見失われやすい。そう書いてみると「トワイライトストラグル」など典型的にそうかも知れない(ただし冷戦はそもそも史実が全面戦争にならなかったので個々のイベントが全てなのは仕方がないとも言える)。
これに対して「パックスロマーナ」のシステムは、アクティベーションシステムによるマルチで、各勢力のダイナミックなアクションが盤上を行き来する。このときに大きな要素として、文明度(都市化の程度で経済収入に直結する)、勢力圏(支配エリアの広さで勝利条件に一番重要)、兵員組織力(持てる軍事組織の規模)、指揮官人材の輩出力などが問題になってくる。
たとえば本シナリオでは、ローマは文明度と兵員組織力に勝るが、カルタゴは勢力圏と指揮官人材の輩出力に勝っている。大きな観点での各勢力の長所短所が表されており、それをベースにゲームが展開されるようになっている。
言い換えれば、一回限りの史実で偶発的に発生した細かいイベントにより展開を支配するより、各勢力の力の源泉となる要素に注目したデザインをしているのである。此処まで分析すると、実は「パックスロマーナ」がわたしの好きな「木を見るのでなく森を見るデザインをしているゲーム」だということが見えてくる。
そんな訳で、実は個人的には同じような時代のゲームだが、「パックスロマーナ」は「RRR(共和制ローマの勃興)」や「ソードオブローマ」よりも高く評価できるという気がしてきた。
そして、森を見たデザインをしているがために、軍事だけでなく経済や政治の要素がバランス良く取り込まれており、ユーロゲーム的なプレイ感も持っている点も広く薦められると思う。
惜しむらくはユーロゲームに寄ったデザインをするならもっと徹底して軍事的な細かなルール(特に戦闘解決)は単純化してしまった方が良かった気がする。逆に上級ルールに持って言ってしまったイベントカードを相互にプレイする部分をスタンダード化した方がゲームとしては優れたデザインになったろうし、さらに広いゲーマーに評価してもらえるようになったのではないかと思う。
いずれにせよバーグ先生の作品としては、かなりノンウォーゲーマーに受け入れやすく、またプレイして面白いものに仕上がっていると思う。是非とも対戦してみたいものだ。