○膚の下[上下]を読む

bqsfgame2007-06-30

神林長平の上下巻あわせて1200ページの大作。
しかも、1983年の処女長編「あなたの魂にやすらぎあれ」から始まる三部作の二十一年目の完結編ということから絶句してしまう。ちなみに第二作は1990年の「帝王の殻」。
下巻巻末にこの辺りのことは詳しく書かれているのだが、ポイントだけ書いておこう。時系列順には三部作は逆順に書かれていて、本作は最初になる。そして、過去の作品で謎だったことが、此処で解明されている。
本作の設定では、人間とその創造物である機械人との月戦争で衛星であった月は既に失われている。地球は荒廃しており、その復興には二百五十年の歳月が必要とされている。この期間を人類は火星で冷凍睡眠して待つことにしたというのである。
この設定の下、地球に残ろうとする反体制的な人間、留守を機械人に預けるのは不安なので人間の代わりに彼らを監督するより人間に近い人造人間として新たに作られたアートルーパー、そして残された人間を全て撤収させて作戦を完了しようとする体制側の人間などが交錯するストーリーとなっている。
主人公はアートルーパーの慧慈。彼は人間に作られた被造物として物語を始めるが、実戦に巻き込まれたりする中、自らのアイデンティティに目覚めていく。そして、彼は人間の復興計画を越える、地球に残される動物たちをも取り込んだ、より優れた復興計画を作り上げる。