☆所有せざる人々を読む

bqsfgame2007-09-13

1975年のローカス賞受賞作。当時はローカス賞の権威はまだまだだったので、ヒューゴー/ネビュラのダブルクラウンと言った方が当時の印象として妥当だろう。
ル・グインは、ゲド戦記の3巻があまりに読みにくくて辟易してしまってしばらくぶり。しかし、本書はとても充実した読書体験だった。
粗筋を書くと却って作品の実像から遠ざかる気がするので簡単に。タウ・セティの二重惑星である海に恵まれた豊かなウラスと、乾燥した厳しい風土のアナレス。主人公はアナレスの共産主義社会の中で生まれ物理学を志し、宇宙旅行の革新的な技術へと結びつきそうな新理論へと到達しようとしているシェヴェック。
物語は彼のアナレス時代の苦労に満ちた生活と、ウラスに招かれた衛星からの歴史的な賓客としての滞在生活を交互にラップさせて書いている。
資本主義対共産主義のような設定になってしまっており、発表年代を考えるとそうした読まれ方をした作品だと思う。けれども、今になって初めて読んだものの感想としては、これはシェヴェックというエポックな人物を厚みを持って虚心坦懐に描き出した芸術作品だと思う。政治的な意図はほとんど感じられない。
後書きを読むと、この推測は比較的あたっているらしいことが分かる。ル・グインには、シェヴェックの姿が見えており、その姿をできるだけ的確に詳細に捉えることで作品の執筆が進んだらしい。
結末はハッピーエンドに過ぎる気がするし、当時としては500ページは大作だったが、いまとなっては少し物足りないかも知れない。しかし、素晴らしい作品であることは間違いないだろう。個人的には今まで読んだル・グインの中ではベストだと思う。
これで少しル・グインの評価が持ち直したので、未読のオルシニア国物語、風の十二方位、言の葉の樹なども順次、読んでみたいと思う。