○クラゲの海に浮かぶ船を読む

bqsfgame2007-09-28

北野勇作の1994年の作品。
サイバーパンクと言えばそうだし、マッドサイエンティストものと言えばそれもそうだ。けれども、これは北野勇作ワールドとしか言いようのない世界。
バイクを運転していたら陸クラゲを轢いてしまったというプロローグから物語は始まる。
第一部では日常生活を送る主人公のもとへ、謎の女性がやってきて、君は記憶を消された研究機関の優秀な人材で彼女はその同僚だったという話しをする。ディックの中編あたりにもありそうな話しの始まり方だ。あれよあれよという間に君は組織に追われて日常生活から離れることを余儀なくされてしまう。
第二部では少年時代の物語になり、機一郎と言う年長の科学好きの友人がマッドサイエンティスト的に怪獣を作る研究に手を染め本当に作り出してしまい自分が怪獣に変身したと言う話しが語られる。
第三部では背景が見えてきて、ネクスライフコーポレーションが作ったダイヤモンドリングという遊園地、そこの清掃をするための人工生物陸クラゲ、それが流出してしまったため駆除するために作られた人工天敵生物風船エイというのが順に説明されてくる。
第四部から第五部に掛けては、この背景すらも実は遊園地の虚構のストーリーで、君は実は機一郎の物語の彼の記憶の受け皿として用意された容器に過ぎず、だから過去の記憶がストーリーに必要な部分しかないのではという話しになってくる。
現実がタマネギの皮を剥ぐように剥離していく感覚はディック的なものだが、北野作品ではそれはどこかとぼけてのほほんとしている。そうか、そんな真相があったのか、それはそれでまぁいいじゃないか‥と思わせてしまう君という主人公ののんびり具合は、戦慄と焦燥に苛まれるディックの主人公とは対極にある。
最後は真相がわかったようでわからない終わり方をしてしまうが、それが完成度が低いとかなんとか文句をつけなくても別にいいじゃないか‥と思わせるのが北野作品の不思議なテイストである。