○未来視たちを読む

bqsfgame2007-11-24

1986年にまとめられた大原まり子さんの未来史短編集。
シノハラのクローン3兄弟、タルス、ミスト、シンクの物語。物語はシンクが自分の心の中の優しさの部分に気付き、そしてそれを失い兄たちと同じ冷血のエスパーとなっていくまでを断片的なエピソードで描いた形になっている。
実際には順不同でバラバラに書かれた短編なので、整合の悪い部分もあるように思える。クローンたちの冷血さを際立たせるための残虐描写には読んでいて吐き気のするような部分もあり、決して楽しい読書とは言えない。それでも若き日のエネルギッシュな大原短編群にはかなりの魅力があり、きちんと構成されずに書き始められた断片的な未来世界にはコアなSFの魅力が散りばめられて輝いている。その後の日本SF界全体の低迷、もしくは拡散による希薄化でこうした流れは大成しなかったように思うが当時の輝きを思い出すことができて嬉しかった。