○エンジェルエコーを読む

bqsfgame2008-03-05

山田正紀の1987年の文庫書き下ろし長編。
大学生当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった山田正紀さんの作品を次々に読んで強い感銘を受けたのを昨日のことのように思い出すことができる。「神狩り」、「弥勒戦争」、「氷河民族」、「襲撃のメロディ」、「神々の埋葬」‥。
ところが、星雲賞受賞作の「地球精神分析記録」あたりから少し違和感を覚えるようになった。この違和感がさらに強くなったのは日本SF大賞「最後の敵」だった。
その違和感と言うのは、登場人物たちが病んでいるという印象を強く受けるようになったことだ。同じようなことを感じるのが先日のジョン・ヴァーリーだろうか。
「宝石泥棒」は希代の傑作だと思うが、登場人物たちが病んでいるという印象はこれにも強くあった気がする。
この「エンジェルエコー」はそうした作品より少し後に位置しており、やはり病んでいるような印象を受ける。主人公はヴァットチャイルドと言われる親を持たない培養槽で育った境遇で、銀河最高の作られたヒロイン香青玉を救うためだけにビッグバン以前の宇宙から残された時空のゆらぎを探検するプロジェクトのパーツとして人生を過ごしている。
ドライマティーニをイメージした宇宙プロジェクト、作られたヒロイン、そのヒロインを助けるためだけに存在するかのような人生を送る主人公。そして、イメージでしか語りようのないビッグバン以前から残された時空のゆらぎに関する描写。全体に骨組みが弱くふにゃふにゃした印象を与える小説だ。「想像をできないものを想像する」という山田正紀の志に沿ってはいると思うので一定の評価はできると思うが、かなり脆弱な印象を受けるので物足りなく感じたのも事実。