○第29期囲碁名人戦全記録を読む

bqsfgame2008-09-09

さて、一気に時代は下って(?)2004年秋の第29期になる。
時の名人は、依田紀基。若い頃から秀行教室の最強若手として注目されながら、なかなか名人戦の大舞台に登場せず初挑戦は1999年というから33歳。一旦は趙名人に跳ね返されたが2000年に奪取して、以後4連覇した。そして、2003年には若手四天王の先頭を切って挑戦者となった山下敬吾を跳ね返して、この年は張栩本因坊(当時)の挑戦を受けることとなった。
実を言うと、依田名人時代というのは、わたしは囲碁に関心がほとんどなかった時代で、依田名人の強い棋譜と言うのはほとんど記憶にない。逆に張名人は、最近になってリターンしてきてから見る機会が多いので、それなりに印象を持っている。
恥ずかしながら張名人の棋譜は、わたしには非常に難しい。序盤戦から足が早く、落ち着いていないところがあるのにどんどん転戦してしまうので、総譜などでは並べることすら大変。しばしば、一杯まで厳しいところまで踏み込むので、解説なしでは手の意味や他の変化など当方の理解の及ぶところでないことも多い。これに加えてコウ争いが多いのが手数を増やし、棋譜を並べにくくし、また手の価値や局面判断を複雑にしていると思う。その一方で、そうした複雑な世界に踏み入れることを恐れないばかりか、複雑になればなるほど自分の能力が発揮できると積極的に志向しているのかとさえ思わせる。大竹元名人が哲学的に難しいとすれば、張名人は現実的に難しいという感じだろうか。
この7番勝負は、4局目までは黒番が入れあってタイで進んだが、4局目は名人が優勢な碁を勝ちきれずに張挑戦者の一縷の望みに賭ける勝負手の連続で逆転されたのが響いた。残る2局を挑戦者が勝利して、史上5人目、史上もっとも若い名人本因坊(二十四歳)となった。
特に劣勢を挽回するために勝負手を連続する第4局、優勢の碁を最短で勝ち切るために緩まず踏み込む第5局は、張新名人の面目躍如の棋譜と言う印象を受けた。