S&T245号:三国同盟戦争を入手

bqsfgame2008-09-10

中南米ゲームの番外編と言ったところだろうか。
ところで、新大陸での軍事紛争で最大のものは?‥と言ったらおわかりだろうか。ウォーゲーマーであれば冷静に考えれば間違えない質問ではないかと思う。合衆国内戦、いわゆる南北戦争である。
さて、新大陸での軍事紛争で二番目に大きいものは?‥と言うと、これは新大陸史に専門的な興味がないと答えられないのではないかと思う。わたしは全然わからなかった。答えは、この三国同盟戦争である。
Wikipediaの記事が良くまとまっているので、俄か勉強したのだが実はこの辺りのラテンアメリカ史は非常に面白い。それぞれの国が、それぞれに自国の発展を求めて模索しており、しかも各国とも内情が安定していない。他国との紛争になると相手の内情を利用したりするので、それによるクーデターなども容易に発生する。そして、ほとんどの国を影で経済支配している欧州の黒幕、英国の存在がしばしば垣間見える。
ブラジルとアルゼンチンという南米の東側の二大大国の間には、ウルグアイパラグアイという二つの干渉国家が存在していた。ところが、ウルグアイはブラジル寄りのブランコ党とアルゼンチン寄りのコロラド党が争う不安定な弱小国家だったのだが‥。
意外なことにパラグアイは1811年の独立以降、自力での開放・近代化政策で小粒ながらもピリリと辛い国家を形成しており、人口50万人ほどの国家でありながら予備役まで含めれば6万人という南米最強の軍隊を擁していた。
ウルグアイの内戦の混迷から、時のウルグアイ政権がパラグアイに援助を求めたことから三国同盟戦争は始まっていくことになる。パラグアイの思惑としては、ウルグアイ政権を援助して介入し、アルゼンチンからの援助も取り付けてブラジル帝国に対して優勢に戦局を進め、南米内でのポジションを大きくし発言権を獲得しようと考えていたらしい。
残念ながらアルゼンチンの反体制派に密約を反故にされ、ウルグアイでもパラグアイ寄りの政権が倒れてしまい、結果的にはブラジル+アルゼンチン+ウルグアイ三国同盟を相手にパラグアイは孤軍奮闘するという最悪のシナリオになってしまう。この背景には、南米諸国に多額の借款を貸し付けて間接支配していながら、唯一、独力近代化を成し遂げ支配力が及ばないパラグアイを快く思わないイギリスの思惑があったと言う。
パラグアイは徹底抗戦を続け、国民の過半を失うところまで戦って敗北、南米の孤高の近代化国家の挑戦は圧倒的な包囲網の前に潰え去ることとなった。
しかしながら、この戦争の結果によりブラジルでは帝政の力が弱まることとなり、アルゼンチンでは近代化が進むこととなった。結果としてラテンアメリカでは歴史のフェイズが一つ進んだと言えるのかも知れない。もちろんそのためには、ラテンアメリカ諸国がイギリスの借款支配から離脱することが必要となる。
その物語は欧州でのもっと大きな戦争(第一次世界大戦)と絡んで語られることとなっていくのだろう。
こうしてパラグアイの歴史を見てみると、その国家としての魅力的な在り方が感じられ、この三国同盟戦争での孤高の抵抗には大いに心揺さぶられるものがある。
ちなみにデザイナーは最近、台頭著しいハビエル・ロメロだ。最新作のスペイン内戦は日本のゲームショップでも話題作として紹介されている。彼が登場したことで、従来はアメリカのゲームシーンでは扱われにくかったスペイン語文献を読む必要のあるラテンアメリカイベリア半島周りの戦役にスポットライトが当りつつあるようだ。
先日の「コンキスタドール」ではないが、新大陸発見史ではスペインとポルトガルが先行したことなどもあり、本当は16世紀から19世紀に至る世界の紛争史ではスペイン語ポルトガル語圏を抜きには語れないのではないかという気もする。
その意味でロメロの今後の活躍から目が離せないと思う。