南北戦争:戦争に非ず殺人なりの評価

bqsfgame2009-01-08

たいへん長くなってしまったが、延々と書いてきたことは、全て「戦争に非ず殺人なり」というゲームをたかさわさんとプレイしたことからインスパイアされている。
「戦争に非ず殺人なり」というゲームを、南北戦争の史実に明るく、その機動戦の可能性を追求しているたかさわさんとプレイしたのは、極めて知的刺激に富んだゲーム体験だった。その刺激はそのまま流してしまうには、あまりにも惜しいものだったので、このように長文に渡って記録を書き残そうとしている訳だ。
「戦争に非ず殺人なり」は、前述したグラント将軍の確固たる意思に基づく消耗戦の象徴的な戦いとなったコールドハーバー戦のゲームである。しかし、実際にゲームをプレイすると、単純な正面突撃による消耗戦ではなく、北軍は最初から正面突撃することも選べるが、左翼へ展開する延翼機動も選択できるようになっている。その結果、南軍は最初はアンナ川の渡河点を巡って、北軍が攻勢を掛けてくるであろう地点に先に機動して防御態勢を整えて攻撃側に損害を強いるような作戦を実際に盤面で機動することができるようになっている。これこそは、前に書いた「『敵が攻撃しなければならない位置』を見出して、そこを逸早い機動で占拠する」戦術の実証例に他ならない。
その南軍の積極的な防御機動を踏まえて、それでも戦略的な勝利のためにはいずれどこかで正面攻勢に出て消耗戦を強いることをしなければならない‥というのが北軍の立場である。その決断をいつどこでするのかが、北軍プレイヤーに与えられた最大の命題ということになろう。
たかさわさんが北軍をプレイしたときに、機動による勝利を求めたが上手く行かなかったのを見たときに、このゲームの戦略的な罠のようなものを感じた。
正面攻勢が攻撃側に大きな損害をもたらすであろうことは、本ゲームでも容易に類推できるようになっている。このため、いかな北軍と言えども他の選択肢に可能性や魅力が感じられる間は正面攻勢は回避したいのが人情である。
ところが、ゲームシステムが「ブレークアウト・ノルマンディー」方式のインパルス数不定長方式であるため、機動をしようとすると問題が生じてくる。北軍の資産は、南軍よりも優勢な規模の大きな軍隊である。これは、損害に対する耐久力が大きいという利点、延翼により戦線が長くなっても部隊密度が確保できると言う利点をもたらしている。しかし、その一方で軍団数が多いため、全軍を機動するためには多くのインパルスが必要であり、不定長の範囲では全ての軍団を機動できないターンが発生してくるというリスクをもたらしている。
もう一つ「戦争に非ず殺人なり」の大きな特徴として、総司令官による複数軍団の同時機動(攻撃)のルールがある。このときに、南軍のリーが健康上の問題で毎ターン確実には活動できないのに対して、北軍のグラントは毎ターン確実に活動ができるという利点がある。健康でストレスに強いことは将軍の必要事項の一つなのだと感じさせる。
そして、この複数軍団による攻撃は、防御側有利な戦闘システムにおいて、攻撃側が勝算を確実に握ることができる唯一とは言わずとも最大の手段になっている。したがって、これを使わないのは非常にもったいなく、一種の機会損失と見て良い。
そうすると、北軍は総司令官による複数軍団攻撃を毎ターン確実に使用するためには、複数軍団攻撃をターンの早い時期に実施し、全軍を機動させることは諦めた方がどうも分が良さそうだということになってくる。となると、延翼せずに、いきなりグラントの指揮の元で正面から攻勢に出るという選択肢には、意外に利点が多くあるのではないかということになってくる。後は、戦闘のダイス次第だが、なにせ両軍が共に2ダイスを振るゲームなので、最大では+10(自分が12で相手が2)から−10(逆のケース)までバリエーションがあるので、そこは揺れが大きい。
とは言え、機動戦術に出たとしても、期せずして早々にターンが終わってしまうと言う別の揺れと戦って作戦を遂行する必要がある訳であり、正面攻撃が特別にランダムさに晒されているとは言えないだろう。
また、ゲームマップのサイズの都合で延翼範囲に限界があり、左翼への機動は盤端という金魚鉢のガラス壁に突き当たって止められてしまうことも問題である。
結果として、たかさわさんの「マクレランのように部隊を温存して機動によって勝利を得る道を最後まで模索したい‥」という努力は、少なくとも本ゲームの範囲においては些か不利なのではないかと愚考する。
個人的な意見だが、ゲームのルールとしては第1ターンのみ北軍インパルススタートで、他のターンは南軍インパルススタートとなっているが、これは全て北軍インパルススタートでも良いのではないか。そのくらいのことで北軍の機動勝利が可能になりはしないかも知れないが、少なくともゲームとしては北軍に機動オプションの魅力が今少しあった方が面白いように思う。
[つづく]