×平ら山を越えてを読む

bqsfgame2011-09-08

迷ったが×にした。
表題作は素晴らしい。アパラチア山脈プラトーの如く垂直隆起した結果、その平ら山を越える輸送ビジネスに従事する新しい冒険家たちが生まれた。その運び屋を巡るハートウォーミングなエピソード。
どことなくラファティな、どことなくエリスンな、どことなくゼラズニイな。いや、連想する作家がどれもカッコイイ人ばかり。これは良い作品ですよ。
しかし、ビッスンの第3短編集に顕著なのだそうだが、死や老いと向かい合う作品が増えたそうな。本書も後半に向けてそうした作品がずらりと並んでおり、特に巻末の中編「謹啓」は陰鬱に過ぎると思う。
「謹啓」と言うのは、合衆国から対象者への手紙の書き出しなのだが、その手紙は戦時中の赤紙よりも辛辣な内容だ。「スタートレック」に似たようなエピソードがあったかと思うが、あれよりもずっと人の心の内面に踏み込んだ内容で読んでいて苦しくなる。
「マックたち」は、今となっては解説してもらわないと理解できない時事ネタ作品だが、SFならではの極めて残酷な問題提起だと思う。映画「ブレードランナー」をどこか連想させるシチュエーションだったりもする。
中村融さんのアンソロジストとしての腕前は文句なく発揮されていると思う。ただ、ビッスンの作風の変化が期待せぬ方向へと進んだと言うことなのだろう。