もしも貴方がゲームの販売マーケターなら:別の道編

話しの発端が「売れているゲーム」だったので、この話しも「数を売るには?」と言う視点で話しを進めてきた。
したがって、販売数、売上高志向の議論をしてきた。ただ、近年のファイナンス論の常として従来型の収益とは別の物差しで議論することも考えられると思う。
具体的には、
17:ゲームを限定数量販売にする。
と言う作戦である。
8:インターネットで事前予約割引価格で予約募集する
15:初期ロットに限定販売のミニ拡張キットをオマケに付ける
もそうなのだが、所謂チャルディーニの「希少性」に訴えかけるマーケティングである。予約特価やオマケもそうだが、ゲーム自体を限定数にして「欲しかったら今買うしかないよ」と煽る作戦である。この作戦は販売数が限定されてしまい、結果として売上高が限定されてしまうので、今回の議論と相容れないので最初の出題編から意図的に削除した。
ただ、この作戦は実は非常に有力である。理由は、
1:販売速度を上げ、早期に完売が期待できる
2:上記の結果としてキャッシュ化が速い
3:上記の結果として不良在庫リスクが低い
4:強気の価格政策を可能にする
と言った諸点にある。特に2と3は近年定着した印象のあるキャッシュフロー会計では非常にポイントの高い点だと言える。
この作戦はキャッシュフローが小さい新興メーカーには非常に魅力的だと言える。
実はこれはクイズではなく、実践しているメーカーがある。ご存じ、ワレスのウォーフロッグ社などである。彼らのモデルはさらに進んでいて、限定販売で好評で増刷が望まれる作品は、ライセンスを大手メーカーに売ってしまう方式を取っている。つまり、
5:ライセンス売りで即現金化が可能になる
6:つまり、ファーストロットに比べて現金化速度が遅いセカンドロットにキャッシュを固定されないで済む
7:販売速度が遅いセカンドロットの在庫リスク、在庫管理コストを抱えなくて済む
もちろんその代わり、ライセンシングで得られる現金はセカンドロットを最終的に完売した場合に得られる現金額に及ばない。そうでなければ誰もライセンスしないだろう。それでも、キャッシュフローを必要としないで済むことの利点は大きく、会社を不必要に大きくする必要がない。それは、かつてD&Dを当てたTSRや、マジックギャザリングを当てたWOTCが巨大な自社ビルを建てたのとは別の道を行くと言う新時代の選択肢なのだと思う。デザイナー、ライセンス交渉人、ウェブサイト管理人くらいがいれば良く、予約リストを作ってそこへ直送してくれるサービスをやる小口対応の印刷会社があれば倉庫も要らないので自宅でもやれそうだ。そうすると事務所経費も要らない。もちろん秘書も社用車もないが、そんなものにステータスを感じる価値観を持たなければ何の問題もないだろう。
これが複雑系リソースマネージメントゲームの鬼才ワレスが、ゲームビジネスと言うリアルマネーゲームで出した答えなのだと思うと、なかなか含蓄があるように思う。
ただ、ユーザー側からすると着いていくのがしんどいビジネスモデルで、新作情報を常にウォッチして、限定販売の予約を忘れずに実施しないと、評判の傑作ゲームを入手できないリスクに常に晒され続けることになる。そして、このリスクが広く認識されるほど、限定販売ロットの完売速度は早まりメーカーのキャッシュフローは楽になる。逆にユーザーは予約時点でキャッシュを固定されてしまうのでキャッシュフローが悪化する‥(^_^;
個人的な愚痴に近いが、このビジネスモデルはメーカーとユーザーがウィンウィンになっていないメーカーの一人勝ちモデルなので、このホビーの共存共栄と言うことを考えれば決して良いこととは言えないと思う。
実はGMTのプロジェクト500も似たような性質があり、事前予約が一定数に達しないと印刷しないので在庫リスクをメーカーが負わず、逆に予約段階でユーザーはキャッシュを事実上固定されてしまう。
こうしたメーカーがリスクを負わずユーザーからキャッシュを毟り取るようなビジネスモデルでないとウォーゲームメーカーが企業存続できないとすると、このホビーがビジネスとして魅力が薄いことを改めて認識させられる。