ロシニョール:ヴェクトリス8000Q

bqsfgame2015-03-11

実家から発掘された2本のロシニョールのラケット。
なんと懐かしい。ヴェクトリスシリーズの中級機種8000クォーツ。それも販売広告がガット面に吊るしてある未張り込みの完全新品。渋谷のエディーで買ったもので、当時使っていたヴェクトリス9000DPともども廃盤になった時に、まだ売っている店を探して2本予備に調達したものだ。結局、ウィルソンのトッド・マーチンモデルに移行したので予備品は新品のままで20年に渡って実家に眠ることになった。
ロシニョールがラケットを作っていたというのは、今では若い人は知らないらしい。2005年に、サーフィン中心のクイックシルヴァーに買収されたこともあり、今では黒歴史だろうか。
もともとがロシニョールは、バブル全盛時のスキー大ブームの時にお洒落なスキーブランドとして日本でも大人気だった。CF成形技術の繋がりから、ゴルフクラブやラケットにも展開していたのだが、そこらへんはクイックシルヴァー的にはなかったことになっているのだろうか。
と言ってもロシニョールのラケットではF200カーボンは、当時のナンバー1だったヴィランデルの愛用ラケットとして一世を風靡した。その意味では、そんなに泡沫ブランドでもなかった。
さて、ロシニョールのデザインの大きな特徴がコンベックスブリッジ。ラケットの打球面の楕円形フレームの内、グリップシャフト部へと繋がる二本のフレーム接続部に挟まれた部分がブリッジ。これは、普通は球形の打球面を確保するために、下に凸になっている。ところが、ロシニョールのラケットは上に凸になっている。何を目指しているかと言えば、打球面の上辺部分も上に凸になっているので、これと形状を合わせることで縦のメインストリングスの長さをブリッジ部分(中央部分)では、同じ長さに揃えている。
テニスをやった人は判ると思うが、ボールを飛ばすのは基本的に縦のガット(メインガット)である。ところが、球形形状だと両端はメインガットが短くなり、幅方向に長さが全て異なってしまう。結果として、面の何処に当るかで飛びが大きく変わってしまう。コンベックスブリッジは、ブリッジ部分のメインガットの長さが揃っているので、その範囲において飛びが変わらず安定しているというのが売りである。
実は同じ目的で、球形形状を捨てて長方形形状に近いデザインをしたのがヨネックスのラケット。これはアイソメトリクス技術と呼ばれたが、つまりはメトリクス(長さによる影響)をアイソ(打ち消した)したと言うこと。昔の伊達公子やセレスが使っていたが、弁当箱的な形状でどことなく野暮ったく見えたものだ。ロシニョールのデザインは、同じ機能だが、見た目が美しかったので、さすがフランスメーカーはセンスが良いと思ったものである。
ところで、ロシニョールのラケットは、今の流行のラケット(たとえばピュアドライブ)と比べると柔らかいと言われる。素材の進化があるので、この理解は概ね間違っていない。しかし、ことヴェクトリスに限っては、実は打っているとしなやかさを感じることはない。むしろ、変形が抑えられていて、奇妙な金属音がする。これはヴェクトリスシリーズ独自のデザインであるヴァリアブルトライアングルフレームによる。
ラケットの変形と言うと、普通はボールに押されて後ろへしなる変形を議論する。ヴェクトリスはそうではなくてボールが当たることで打球面の外枠がひずむ変形を抑えている。ボールが当たると、その力は縦横のガットを伝わって打球面フレームの上下左右の四点を内側に引っ張る。その結果として、斜め方向の四点は逆に外側へ向けて撓む。ヴェクトリスは断面を三角形にして、内側へ引っ張られる上下左右では内側へ変形しにくい内側面を底辺とした三角断面を、外側へ撓む斜めの四点では逆に外側へ変形しにくい外側面を底辺とした三角断面を持つフレームを採用した。場所によって断面形状が変化するので、非常に設計的には面倒だったと思うが、それをやって見せたのが同社のCF成形設計技術の腕と言う所だろう。
結果としてフレーム変形に力が逃げないので、ボールを打つ時にボールを潰す作用が強く、また変形が抑えられているので高周波の振動が出る。
なので、ラケット面に乗っている感触が得られるのがメリットで、これは今時の高弾性素材ラケットが反発でボールを飛ばすのとは一線を画したプレイ感がある。ただし、キヨーンと言うアルミ管で打っているかのような打球音は止むを得ない。振動止めを付ければ音は止まるが、折角の打球感が失われてしまうので、個人的には付けないのがお薦めだと思う。