☆宇宙探偵マグナスリドルフを読む

bqsfgame2016-09-04

長らくお待たせしてくれました。
ついに国書刊行会ジャック・ヴァンスコレクションが登場です。
第1巻は、マグナス・リドルフシリーズコンプリートです。
本書を読むと、改めてマーティンの「タフの方舟」が模倣作品であることを認識できます。
掲載順は刊行順ではないのですが、なるほど良くできた並びです。

以下、
ネタバレ注意です。

「ココドの戦士」はSFMのバックナンバーまで探して読んだ作品で、これが誰にでも読めるようになったのはちょっぴり口惜しいかも。しかし、昆虫人間の部族闘争をギャンブルと観光にしてしまう人間の強欲は良く書けています。
「禁断のマッキンチ」は、異星の市長に頼まれて内部横領および殺人の犯人を職員の中から探すというフーダニットもの。探偵という表題に合った一作です。ただ、市の職員というのが、どれも他の星系から来ているエイリアンだというのが、ヴァンスらしい所。推理物としては、あまりに推理過程が突拍子もないので成立していない気がしますが、そこはヴァンスですから。
「恐鬼乱舞」は、リドルフが高級植物の農場を半分買い取ったら、そこにはとんでもない害獣がというお話し。それをどう解決し、売りつけた人間に報復するかが見世物。恐鬼という異星生物の生態を見極めて捕獲する所がミソなのだが、そこはいかにもヴァンス流。
「盗人の王」は、盗む技術が尊ばれ、その技術が一番高い者が王になるという星へ行ったお話し。もちろんリドルフもいろいろ盗まれるが、そこは転んでもただでは起きない。
「馨しき保養地」は、素晴らしい保養地になりそうな場所にリゾートを築いたが、獰猛な野生生物のため事業継続不能に陥る依頼者を助ける話し。不思議なことに原住民は野生生物に襲われないが、それは彼らの発する悪臭‥のせいかと思わせて、もちろん答えは違う所に。
「とどめの一撃」は、大昔に「SF9つの犯罪」で読んだはずなのだが、まったく忘れていた‥(^o^; これは本書で2作目のフーダニット。例によって理解不能な文化、習慣を持つ人間が集まった中で、既に発生した殺人の解決を求められる。例によって推理の面白さではなく、その奇妙な文化のショーケースとしての面白さで読ませてしまうヴァンス節。
「ユダのサーディン」は、異星でサーディン養殖事業で大成功を収めた悪徳経営者のカラクリを暴き、裏をかいて見せる痛快譚。ヴァンスの得意パターンの一つに、「こんな生物に知性があるはずがない」という思い込みが間違っている‥というのがあるが、これはその一つ。
「暗黒神降臨」は、ヴァンスらしくなくハードSF的な謎解きがあるお話し。そもそも三重星系という不思議な設定があることからして、そこにカラクリがあるはずと読めてしまわなくもないが、ヴァンス作品はネタバレで面白さが失われるほどヤワではないのだ(笑)。
「呪われた鉱脈」は、出だしは本格ミステリー風に始まる。もちろんそういう風に終わる訳はなく、「ユダのサーディン」と同じパターンのトリックが登場する。しかし、これはいくらなんでも不自然だよなぁとは思うが。ちなみに、リドルフのデビュー作で、当初の単行本には入っていなかったのだが完全版でついに採録されたらしい。ヴァンスとしては、若書きだという反省があるのだろう。
「数学を少々」も、若書きのシリーズ2作目。悪徳カジノをこらしめるという点では「ココドの戦士」に一脈通じる。しかし、こちらはもっとオーソドックスなラスヴェガス的カジノの宇宙版。シリーズ当初は、ルドルフは数学者という設定だったのがちょっと驚く。思えば「宇宙船ビーグル号」も社会心理学者が主人公なので、科学者が主人公というのは1940年代的には自然な発想だったのだろう。