○テレパシストを読む

創元SF文庫、1975年です。

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ブラナーのヒューゴー賞候補作で、一番、古い物。

それにしても、この時代の創元さんの本は、タイトルのセンスも、装丁も、読者に手に取って欲しいという願いが込められていないような気がして残念です。

内容は、かなり良いです。

テレパス能力を持つ肢体不自由の少年が、国連機関に見いだされてエリートになっていく過程を丁寧に描きます。

テレパス能力を使った精神科医師として尊敬される立場となりますが、物語は彼の内面を踊らぬ筆致で描写します。シルヴァーバーグの「内死」を連想しました。

後半では、テレパスが自分の能力で周囲の人間を巻き込んで自閉症的世界を形成する症状が描かれます。この症状から周囲の人間を安全に切り離すために、強力な別のテレパシストが形成する内面世界へと潜航するのです。ゼラズニイの「ドリームマスター」を思い出しましたが、読んだのが遠い昔なので適切な連想ではないかも知れません。

それにしても、ブラナーがこれほどの筆力を持つとは知りませんでした。

こちらでは、本書に言及しており、その実力は知る人ぞ知るだったようです。

ジョン・ブラナー(John Brunner)

思うのですが、残る二つのヒューゴー候補作品が未訳なのは痛恨なのではないでしょうか。

「四角い都市」と、「ザンジバーに立つ」です。三回目にして、ついに受賞しています。その後が「ジグザグ軌道」、「羊は見上げる」です。これらも未訳のまま。