☆人形都市を読む

川又千秋の第一短編集です。

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古書入手の新潮文庫版。

第一短編集だけあって、多少、若書きで粗さが目立つのは否めません。

しかし、川又千秋のエッセンスは既に此処に出揃っているように思います。

表題作は、世代宇宙船テーマのヴァリエーションです。植民惑星が順調なスタートを切ったと見て、植民者に任せて放置した所、周期性の恒星活動により住民は不妊化してしまい高齢化して滅びに瀕していきます。

その結果として、最後の少年には真実を教えずに愛情だけを注いだママたち。そのママが死を迎えたことによって真実を知る権利を得た少年。

と、こう書くと、いかにもSFらしいSFなのですが、それを歪んだ情報しか持たない少年側の視点で描きだします。そこが非常に意地が悪くて残酷な所で、異形の世界、異形の展開を迎えていきます。

「天界の狂戦士」もそうでしたが、川又作品は時に「ここまで残酷にならなくても」と思わせるほど徹底的にやります。その最初の発露と言った所でしょうか。

冒頭作の「夢のカメラ」は処女作品だそうですが、スランバーな火星と言う川又作品の代表的なモチーフです。どことなく「蟹工船」を思わせる搾取されている火星人労働者の描写は、これも後の川又作品でも見慣れた情景です。

上記の二作品が、本書の中でも収穫であるし、後の川又千秋の方向性を示しているという気がします。

なんとなくですが、「亜人戦士」を読みたくなりました。