○牙の時代を読む

小松左京短編の中村セレクション。

今回のお題は、「毒蛇」です。

同作品が収録された角川文庫「牙の時代」を全部読みました。

いわゆる「エロ・グロ・ナンセンス」系列の作品を纏めたものになっていて、読後感は良くありません。

日本の第一世代SF作家は、平井和正を例外として、あまりそうした系列の作品は書きませんでした。星新一の星の数ほどあるショートショートには濡れ場が一つもないとも言われています。

ただ、書かないと言うのと、書けないというのは別の話しで、書けるんだよというエビデンスとして小松先生は時折そういう作品も書いていました。

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さて、「毒蛇」は、核戦争後の世界で、自動給餌される食料と人口とがアンバランスになったため、人口調整する方法として大人の男性(アダルト)になる資格を得るには、自分の父親を抹殺しなければならなくなった社会を描きます。

背後には、どうして哺乳類と鳥類には、毒を持った生物種が少ないのかと言う生物学の疑問があります。そうした環境に置かれれば、哺乳類(人類)も毒を持った存在に進化していくのではないかと言うメッセージです。

そうした生物学的なテーマが見えても、あまり毒消しにはなっておらず、かなり読後感の悪い殺伐とした作品です。

表題作の「牙の時代」は、あちらこちらで巨大化&凶暴化した生物が発見される話しです。

背後には、種としての個体密度が高くなると「軍隊イナゴ」モードの個体を発生して、まるで別種のように凶暴化して最後は自滅の道を辿るイナゴのようなことが他の生物種でも起こるのではという着想があります。

こうした学術知識に基づいた出発点から「エロ・グロ・ナンセンス」を書いて見せる所が小松先生の一筋縄でいかない所です。こういうものを書けませんかと打診した編集者に対する、「書いて見せようじゃないか、でもちゃんとした本格SFとしてだよ」と笑っている姿が目に映るようです。