○囲碁AIが変えた新しい布石・定石の考え方

囲碁人ブックスです。

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NHK杯の時計係を務めていた安斎七段の著書。

これは纏め方が非常に良く出来ている良書だと思いました。

AIが出てきてから、昔なら「筋が悪い」、「田舎へ帰れ」と言われるような手段がプロの碁に頻出するようになりました。

全体を通して特に感じたことは、

1:いきなり相手の石に密着するような手は筋が悪いとされていたが、実際に打ってみると急に形勢を損じるほどは悪くない

2:密着して相手の応手を問い、先に相手に意思決定させて置いて裏をかくことができる場合は、しばしば有力である

典型的な事例としては、p197の「華麗なコンビネーション」が挙げられます。

ただ、「相手の裏をかく」という極めて人間同士的な駆け引きから有力な手段をAIが自己対戦で開発してくるというのが、非常に不思議な印象は受けました。

p86の「石の形のはずが」の一間かかりに対する外付けからのハネ定石は、筆者が高校時代に勉強した頃も、定石書には載っていたけれど実戦では見たことがありませんでした。「打たれなくなった」と聞いても、何をいまさら感ありました。ただ、なぜ打たれないのかを定性的にでもきちんと説明を聞くのは初めてなので新鮮ではありました。

いきなり三々、ツケ二段などの大流行形はもちろん議論されています。

個人的に非常に興味深い手段と思ったのは、p43の星への掛かりから発生する基本定石の途中で手を抜いてしまう手段です。

定石の途中で手を抜くのは概して悪いと教わった世代なのですが、なるほど此処で手を抜くことを視野に入れて良いものなのかと大いに目から鱗でした。