☆太陽の世界1:聖双生児を読む

半村良の大河SF巨編の冒頭です。

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図書館。

構想では全80巻、1巻で1世代25年を描き、80巻で2000年のムー帝国の歴史を構築するとされていました。しかし、18巻で頓挫、作者逝去で未完の大器と終りました。

ムー大陸の歴史を描くと言うのですが、第1巻が聖双生児なのは、ローマ建国神話やグインサーガと酷似しています。まぁ本書もグインサーガローマ神話から引いているのでしょう。

読むものがなくなってくると、いつも心惹かれるものを感じてきたのですが、ついにという感じです。地元の図書館にあって良かった。

読んだ感じとしては、全然グインサーガと違います。

なにが違うと言ってムーの民は平和を重んじ、人を殺したり、そのための武器を持ったりすることを固く禁忌としています。なので、切った貼ったが全然ありません。

それで物語になるのか?と思いますが、ちゃんとなっている所が半村先生の圧倒的な筆力です。筆力と言う点では栗本薫も負けてはいませんが、あちらは最初から切った貼ったです。ヒーロー、悪役入り乱れ三国志もかくやという国同士の激突が相次ぎます。

そういう意味では半村先生がなくなる時に書き継いでくれるなら栗本薫だろうというのは二つの意味で外していたと思います。栗本先生は人の作品の尻拭いなんかしません。自分だけの創造物を持ちたかったのです。仮に引き受けたとしても、栗本先生には、こんな平和の民の行く末は描けなかったのではないでしょうか?

p19

彼らの神「ラ」は、人と自然とが同一のものであると教えていた。

「この世に我らの友ならざるはなし」

は、「ラ」の教えによるものであった。

p32

白骨は鋭い歯や牙を持った大きな頭部と、長い頸、大きく膨らんでその中を人が歩けそうな胸骨、それに長い尾が伸びていて、全体の長さは大人十人の背丈を合せた程もあった。

p55

「トマピよ。我らに必要な物は、他の者にも等しく必要なものであるということを忘れまいぞ」

p56

「そのように嘆くな。カハの木が我ら一人のものではなかったように、真実はやがて姿を現すものだ。サハが龍に連れていかれたことを、我らの身にふりかかった災厄とばかり思いこんではいけない。これにははかり知れぬラの心が働いているかも知れぬのだ」

p164

「モアイとの合一を恐れてはおらぬ。ラの教えに忠実ならば、はじめて出会った隣人であるモアイを生涯の友として迎えることは、よいことであろう。しかし、白い犬と黒い犬との間に白黒まだらな仔が生まれるように、髪のないモアイと、丈長く美しい髪のアムの女の間からは、髪のない子や貧しくちぢれた髪の子が生まれてくることだろう」