○杉浦日向子の江戸塾特別編を読む

お江戸でござる」の監修者である杉浦先生の対談本です。

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田邉聖子、田中優子泉麻人石川英輔林真理子らとトピックについて雑談します。江戸時代の文化に造詣の深い人同士での雑談なので、往々にして非常に深い沼に入っていきます。

前半は食文化を語ります。鰻の話しが特に興味深いです。

また、「粋」と反対語の「野暮」の議論も面白い。野暮より嫌われた「気障」、「粋」と区別が難しい「鯔背(いなせ)」なども非常に面白い。

親の家業がしっかりしていてお金があり、店は番頭がしっかりやってくれているからお小遣いをもらってひたすら遊んでいるのが「粋」という話しが出てきて、なるほど八巻卯之吉そのものと思いました。

またリサイクルやカーボンニュートラルに関する議論が非常に面白い。

p193

江戸の地図を見ると、朱引内(東は中川、北は荒川、西は神田上水、南は目黒川)の半分が農地なんですね。

トラックも何もないでしょ、船、馬、人間、かろうじて大八車。だから近郊に広大な農村がなければ江戸の百二十万の人口を支えられるはずがない。

p194

武家屋敷は半分が庭園でしょ。朱引内の七割ぐらいが緑地帯、農地、庭園。植物の間に人間が点々と住んでいたという感じですね。

あの時代の、「野菜は四方四里」と言う言葉は、葉物などの軟弱野菜が供給できたのは、だいたい四里以内だったそうです。

p196

江戸時代では、だいたい一年前から二年前の太陽エネルギーの範囲内だけで生きていました。

材木以外のものは昨年度の太陽エネルギーでできるものばっかりでしょう。放っておけば腐って二酸化炭素と水になって、また炭酸同化作用によって植物に戻ってしまいます。

私たちはここ十年ぐらい、エコロジー、リサイクルと言ってますが、そういう観念すら江戸の時代にはなかったくらい、自然の摂理として受け入れられていた。

私たちは常に右肩上がりでないといけないという強迫観念にさいなまれている。でも本来は去年と同じ年収で暮らせる社会のほうが幸せなんです。

幕府が工事で大工に払う賃金を調べたら1.8倍になるのに180年かかった。つまり自分が生きている間はほとんど物価が変わりません。

武士の給料もベースアップがないわけですから、物価が上がっちゃ困るわけです。顔を見たこともない遠い祖先が、関ヶ原で徳川家にどれだけ尽くしたかというだけで収入が決まってしまうのですから、理不尽な話です(笑)。