ディックです。
山田和子さんの新訳版。
知らなかったのですが、この時はハヤカワ文庫は4か月連続のディック新訳特集中だったのですね。他は、銀河の壺直し、去年を待ちながら、戦争が終わりそして世界の終わりが始まった(ジャック・イジドアの告白に改題)だそうです。
サンリオの汀版を読んだはずですが、まったく何の記憶もありません。今回、終りまで読んでも前回読んだ時のことを思い出せません。きっと、なにがなんだか判らずにページだけめくっていたのでしょう。
本書は数あるディック長編の中でも、もっとも難解と言う評判だそうです。フルネームが登場する人物が実に40人以上いて、主要人物だけでも20人を越えます。
ちょっとだけ整理しましょう。
合衆国とドイツが連合したUSEAなる近未来国家が舞台です。
ドイツ人の大統領と、米国人のファーストレディが支配しています。
ただし、大統領は傀儡化していてファーストレディが女系支配しています。
で、大統領は実は本物の人間ではなくシミュラクラなのです。ここまでは多くの人が知る秘密。ところが、なんとファーストレディも既に亡くなっていて替え玉の女優だというのです。これはウルトラヴァイオレット秘密(パラノイアRPG用語)。
ファーストレディの日曜の夜の晩餐会に音楽家が招かれるのが定例ですが、これに招かれることはたいへんな名誉です。
で、これに招かれるべく奮闘する一部の主人公たち。
それとは別に、既にこの晩餐会の常連である念動力で弾くピアニスト。しかし、彼は精神病を患っているのですが、なんと政府は製薬会社の圧力で精神科医を非合法化してしまいます。
ここらへんがそれぞれの思惑で動いていく内に、最後は反乱に巻き込まれていくというストーリーです。誰が何を知っていて知らないのか、誰が誰を追い落とそうとしているのか、ただでさえ人数が多いのにストーリーは混迷を深めています。
いや、これは本当に難しい。でも、ディックらしさはあります。火星も出てきます。ガニメデ生物も出てきます。そういう意味ではディックの集大成的な面白さはあります。ディックマニアなら必読でしょう。新訳を読むことをお勧めします。