×エルズワースと不機嫌な隣人を読む

ヒューゴー賞作家、ロビネット・コワルの処女長編。

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ブリティッシュファンタジーです。スチームパンクより少し前の摂政公時代のイギリス。大陸ではナポレオンが最後の戦いを続けている頃です。
コワルの作品だということ以外にはSFファンが読む必要はありません。
主人公たちは英国貴族で、働かなくても食べられる良いご身分です。
主人公は行き遅れのオールドミスですが、なぜか実在している貴族女性の嗜みである魔法に長けています。妹は美人でモテモテちゃんですが、性格は悪いです。
隣人の妹と友人になりますが、彼女は愛する男から求婚されずに悩んでいます。その兄を姉妹で取り合うのですが、この恋の鞘当ては男性目線にはいかにも共感できない。
母親はご近所での見栄の張り合いに汲々としており、姉妹の問題に真摯に対峙しません。父親だけは味方ですが、そこは女性が期待するような恋愛に対する察しの良さを持ち合わせてはいません。
というようなお話しです。
で、近所の子爵の所へ訪問してきた親戚の若いハンサムな軍人を巡って一騒動おこります。全編、この騒動だけで持たせてしまうので、ある意味では凄い筆力なのだと思います。
しかし、男性目線からは共感できる人物がいないので、読んでいて非常に辛い。特に主人公の馬鹿妹と、隣人の阿保妹の繰り広げる男の奪い合いにはうんざりします。しかし、この騒ぎが最後は決闘沙汰にまで発展してしまい、そこで主人公の魔法が活躍します。
うーん、コワルの「宇宙へ」は、順調に「火星へ」が出ましたが、本書は本国では4冊目が出たというのに全然訳出が進みません。この出来栄えでは無理もないかという気もしますが。
本書にせよ「宇宙へ」にせよ、作者は同性の読者のことしか考えていないのかなという気がしてなりません。「火星へ」が積読になっているのですが、大いに気勢を削がれました。