〇梅田地下オデッセイを読む

 ヤフオクです。

 一時期は暴騰していた本書ですが、普通の高騰くらいに落ちてきたので思い切って落札して読みました。

 本書に収録されている「宇宙猿の手」や「猫の空洞」あたりが筆者の堀晃とのファーストコンタクトだったので感慨深いものがあります。

 「宇宙猿の手

p107

 情報管理官は厳密な意味では人間とは言えない。情報省を中心とするコンピューター複合体の一要素と言えるかもしれない。

p111

 太陽系内の宇宙設備を拡充するために、実験局としての通信設備を搭載して航行している調査船が、冥王星軌道付近で、ごく微弱な電波を受信した。

p113

「‥手首が浮いている‥」

 その比喩は的確だった。

p116

 この物体が密度50を越えていて、いかなる硬度計も受け付けなかった。X線の照射も効果がなく、ニュートリノを半分吸収する所で分子構造の追及は行き詰った。

p118

 新しい情報を得られる限り、私は決して情報階級を滑り落ちることはない。

p120

「私自身、どこで生まれたものか、作られて運ばれてきたものか、自分でも知らない。(中略)私はあらゆる可能性をあなたに提供することができるだろう」

 

「神の手の記憶装置としての機能を確認してみることは忘れませんでした。」

p123

「(前略)なぜか神の手が与えてくれるプロジェクトは完璧でした。」

p124

「私は「猿の手」を思い出したのです(中略)。古い怪談です。願い事を三つかなえてくれるという猿の手の形をしたお守りを手にした女の話しです」

p126

「(前略)私にはまだ最終的に判断がつかないのです。あれは何なのか。人類の進化の可能性を摘み取る存在なのか、情報を食う生物なのか、太陽系外へ進出する試練として神が置いたものなのか‥」

 

猫の空洞

p138

「レイリオンが何回目かのワープドライヴを終えて、次の準備の段階にある時、突然バスターが大声で、ワープを中止しろと叫び始めたのです。」

p141

「バスターは猫を一匹、船内に運び込んでいたのです。アクチヌラ第四惑星に生息する野生動物なのですが、奇妙な行動をとるのです‥」

p142

 一言でいえば、ラーゴ猫には学習行動らしきものがまったく見当たらないのだった。

p144

 「(前略)ロイ教授が唱えた仮説で、生命はもともと「過去に関する記憶」と「未来に関する記憶」を対等に有していたのではないか、進化の過程で「未来の記憶」を捨てた結果ではないか」

p145

 「未来の記憶を優先させて過去の記憶を退化させたとなると、やはり生存には不利になります。記憶通りの未来に能力に応じて最も効果的に対応はできるが、能力限界以上に適応することは不可能です。最終的には過去の記憶を選択した方が生存競争に勝ち残ったことになる」

p157

 -その船室は記憶どおり、青い扉が細く開き、内部から明るい照明が射していた。

 

「猫の空洞」の未来の記憶に関する仮説と、主人公がその記憶を発現させるミステリアスなエンディングは今読み直しても印象的です。この号はヴァンスの名作「月の蛾」の号でもあり、非常にレヴェルの高い号だったと思います。