☆木挽町のあだ討ちを読む

 図書館です。

 昨年の直木賞受賞作。永井紗耶子。

 直木賞受賞作を読むのは、これ以来です。

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 木挽町は、現在の東銀座あたりです。歌舞伎座のHPに紹介されています。

歌舞伎座の路地裏~木挽町~ (kabuki-za.co.jp)

 あだ討ちものなのですが、なぜヒラカナの「あだ」なのかは、読んでのお楽しみ。

 見事、木挽町で仇討ちを果たした一件の顛末を木挽町周辺で当時の目撃者たちに聞きまわる江戸勤番で上京した堅物の田舎侍が視点人物。

 最初に話しを聞くのが、木戸芸者の一八です。いわゆる「呼び込み」です。

 次に話しを聞くのが、立師の与三郎。いわゆる「殺陣師」です。

 三番目が衣裳部屋で衣裳直しをやっているが、時に端役の女形として舞台に立つ吉澤ほたる。

 四番目が小道具製作師の阿吽の久蔵とその内儀のお与根。

 五番目が脚本書きの金治。

 殺人事件を縦糸に、下町の人々の暮らしや人柄を横糸にして織りなすミステリーという点で「新参者」を強く連想させます。作者もインスパイアされたのかも知れません。

 証言者が全員、芝居関係者なのですが、こうなっているのにも理由がありますが、それは読んでのお楽しみ。

 とは言え、小道具作りの所で、「きっとそういうことなんだろうな」と察しがついて、まさにその通りでしたので、真相を最後まで偽装することに作者はそれほど強い執着を持っていなかったのかとも思います。多少、ネタが割れても小説としての読み応えに不足はないという自信があるのでしょう。

p187

 金治「そうですねん。せやけど退屈している暇もあらしません。若様、面白いもんはいつか誰かが何処かから持ってきてくれると思ったら大間違いでっせ。面白がるには覚悟が要るんです」

「面白がる覚悟かい」

「そうですねん。おもしろがらせてもらおうったって、それじゃ拗ねてる童と一緒や。でんでん太鼓を鳴らせるようになったら、そこから先の退屈は手前のせいでっせ」

p200

 清左衛門が御前様からの命令でお上からのお使者の饗応役になった。しかしそのために帳簿を調べたところ、(中略)

p234

 江戸にやって来て芝居小屋に居ついてからというもの、それまでの己が如何に世間を知らなかったのかと思い知らされるばかりだった。‥一八さんは吉原生まれの元幇間。与三郎さんは元御徒士(おかち)。ほたるさんは隠坊に育てられたみなしごで、久蔵さんは職人。金治さんは元旗本。それ以外にも役者や絵師も武士とは全く違う生まれ育ちだし、お客さんたちも物乞いのような人から御大名のように豊かな町人まで様々だ」

p245

金治「だからさ。討つ時にはここへ連れて来な」

 金治さんの言葉に私は首を傾げた。

博徒を通りで討つという話しではないのですか」

 ほたるさんが溜息をつく。

「あの人はせっかくの衣装も粋に着こなせちゃいない。襟元をきっちりし過ぎるんだよ。当世風に気崩して、粋な博徒として人目を集めたところで、綺麗な若衆に斬られなければ」