ちょっと前の実力者二人の対決です。河野9段が早碁では勝った記憶がないという一方で、公式対戦成績は7勝5敗で河野九段がリードとのこと。
二昔前の、小目小桂馬掛かりに二間高ばさみ、三間ばさみという手法の序盤から始まりました。左下で河野九段に目算違いがあって劣勢に。しかし、右下の混戦の中で最強手段を選択した結城九段の読みに穴があったのか逆転。最後は結城九段が投げました。
解説はレドモンド9段でしたが、過不足なく適切に解説されていて解りやすかったです。
河野九段の次は井山王座とのことで、それは大変とご本人も思われているようでした。
8日は、許家元 対 孫喆戦。
若手の今、非常に打てている二人の激突。解説は7月に続いて今期2度目登場のご贔屓の首藤八段でした。
両対局者が最強の手段を繰り出して険しい碁に。首藤解説者は、今回も非常に嬉しそうに解説してくれました。
クライマックスは左下。もうヨセに入って許九段が勝勢なのですが、ヨセでも緩まず最強の対応を続けて盛り上がります。左下の黒からハネて劫にする手段が見えて首藤解説者がセキになる可能性を指摘すると、少し置いてから安田さんが「セキになってしまうとどうですか?」と質問。うーん、タイミングがズレてるし、言葉が少し足りません。「どうですか?」ではなく、「逆転してしまいますか?」という風に具体的に聞けば良いのに。
首藤解説者が拾ってフォローするかと思いきや、左下の難解な手段を読むのに集中していてフォローせず、この質問は宙に浮いたまま流れてしまいました。
質問の着眼点は良いですし、多くの視聴者も同じ疑問を持ったと思うので、重ねて明確な表現で質問すれば良いのにと思いましたが、遠慮があったのかそれもせず。
孫八段が実際にハネた瞬間、許九段は押さえずに一路外してケイマで受け、「なるほど、この手を用意していたのですね」と解説者。しかし、劣勢の孫八段はその上にツケて追及し、白がハネた後、なんと最初のハネた石から左へ伸び込んでアタリに突っ込むという奇手が繰り出されました。「これはヒネり出しましたね」。数手進んで黒の不利な一手寄せ劫に。それでも手にはなりました。大ヨセ段階で許九段が有力な劫材を3つも時間つなぎで打ってしまった(この段階で解説者は「こういうのはお勧めできませんね」と指摘)こともあり、白は早々に妥協。黒はフリカワリに右上の死んでいた石が復活しました。
しかし、それでも逆転には至らず孫8段の投了となりました。
結果から逆算すると、安田さんの宙に浮いた質問の答えは、「セキになっても黒は足りないみたいですね」だったようです。
安田さん自身が左下を読み切れないのは止むを得ないでしょう。稀に見る凶悪難度の実戦詰碁でしたから。
ただ、視聴者が聞きたいことを代わって聞いてくれることが聞き手の役割なので、そこで言葉の選び方が不適切だったり、スルーされても諦めずに突っ込んだりする能力は磨いて欲しいと思います。
頑張れ、安田明夏!
15日は、ネット情報によると、安田さんの入段を強く推したと言われる当時の理事長の小林覚九段の解説。
対局は芝野前名人と羽根九段です。この二人は7勝7敗だそうで、小林九段も指摘していましたが羽根九段がかなり頑張っています。羽根先生が本当に強かった時代には虎丸君はまだ当たるようなラウンドまで上がって来ませんでしたから虎丸君が台頭してからの対局がほとんどなはずなのに、互角ってすごいです。
対局中に小林九段が羽根先生をいろいろな側面から褒め続けていて、その一つに羽根先生は一流棋士になってからも普及イベントに必ず出てくれるという話しがありました。
ぼくらの世代は対局に一生懸命だったんですけど、それじゃあいけなかったですかね。という反省の弁が出て、現在の日本棋院の財政基盤の問題の背景として、納得しながら聞きました。
そして、安田さんに「だから安田さんも普及に頑張ってくださいね」と話しが繋がって、そうか普及のための秘密兵器として安田さんを関西棋院から引き抜いて関西総本部で入段させたのかと、ちょっと納得しました。
碁の方は下辺で振り替わった時点から少し羽根先生が持ち前の明るさを発揮して優勢だったかと思いましたが、中央から右辺に掛けての石を殺し屋芝野に攻められて追い上げられ、最後は1目半の芝野勝ちとなりました。
ヨセの早い段階から羽根九段は少し悪いのを見切っていたようでしたが、投げるほどは離れていないので最後まで作りました。
小林解説は対局者心理に根差した着手予想が良く当たって、対局心理学の分析としては非常に面白く聞けました。
22日は、一力棋聖・名人・本因坊・天元と広瀬7段。広瀬君が新人王を取ったのも気付けば6年前になりました。
解説は蘇9段。
碁は途中、広瀬君が上辺の黒を分断した所から一気に険しくなりました。一力棋聖が81手目で、切りではなく上辺左側の石のグズミで上辺を取り切ろうとしたのが本局の白眉。それまで白優勢だったAI評価が、この手が人間によって打たれた途端に黒有利に転換しました。蘇9段も指摘しましたが、AIは事前にはこの手を見込んだ局面評価ができていなかった訳で、AIが見えていなかった手を人間が見つけたということです。
まだまだAIにも見えないことがあると判って、人間の可能性を信じられるようになった場面でした。黒が切らなかった所を白は当然ツイで頑張ることになり、分断された黒、上辺で孤立した白のそれぞれのシノギの攻防が激しくなりました。黒は分断された部分を割り込んで劫にする手段を見てきましたが、この図は白が支えきれないと見た広瀬君は先に左側の黒の5子をアテて、そちらを取ってしまいます。黒は振り替わりに右側に分断した白8子に襲い掛かり、蘇9段も「これは僕でも取れそうな気がします」とコメント、もはや絶命したかに思われ、どうサバいて被害を最小化するかの問題かと思っていたら広瀬君は強情に全部を助けようとして事態は紛糾。結果は右辺で劫になり、予定と違う場所の劫を争うことに。ここで右下のコウ材について、黒がコウ残りの振り替わりで妥協したのですが、白はそれでも足りないと見て頑張り続け、コウではない完全死で黒が右下を取り、白は死んだものと思われていた上辺から右辺の一団を生きるという別れとなりました。
さらに、下辺で最後の戦いが発生し、白は下辺の大石を捨てて、再び黒の中央の石に狙いを定めました。しかし、どうにも取り切れないと見て最後は広瀬君が投了。
一力棋聖・名人が第一人者の実力を見せて最後は完勝しました。
蘇9段の解説は、ご本人は見えない見えないと言いながらも、なかなか焦点のあった解説ぶりで非常に好感が持てました。
29日は、安達7段と佐田7段の東西の打てている7段対決。
解説は関西棋院の瀬戸8段でした。
自己紹介や解説者予想の通り、佐田先生が地を稼ぎ、できた安達先生の模様に突入して凌ぐという展開に。途中から安達先生が豪腕を見せて大きな劫が発生。この劫が波及して次々に別の場所の大きな劫へと移って行き、都合4つの劫を解決した所でようやく一段落。一段落した時には盤面はほとんど埋まっていてヨセに突入。形勢は意外なほど微差かとも思われましたが、微差ながらも佐田先生リードとなり、もはや縺れる綾もなくなったと見て安達先生が投了して終りました。
瀬戸先生の解説は、4月に続いて二度目でしたが安定していました。講座講師だったこともあり、安田さんもやりやすそうに勤められていてなによりでした。
佐田先生の二回戦を解説した清成九段が言われていた「佐田先生はもはや日本を代表する棋士になられましたから」との言葉通りにベスト8へと進出しました。ご本人は次はどちらの先生になってもほとんど勝ったことがないので‥と言われていましたが、勝負士たるもの少し貪欲になって欲しい気はしました。