図書館です。
どう考えてもジャイアンツとしか思えない人気球団オリオールズで、どう考えても長島監督としか思えない葛城監督のもとで投げている若手エースの沢村が主人公です。
ところが、チンピラに暴力を揮われ、それが八百長の約束を破ったためだと偽装され八百長選手の疑いを掛けられて二軍落ち。
その彼が素人探偵として真相を追及していく物語です。
このチンピラが、なぜかオリオールズの左ピッチャーばかりを狙っているので、サウスポー・キラーです。
この左ピッチャーばかりを狙うことには真犯人の動機が隠れているのですが、そこはかなり後ろの方まで行かないと見えてきません。と言うか、意図的に判らないように人物造形を作ってあるのです。動機と真犯人に、あまりにも密接な関係があるからです。
帯にある通り、第3回、このミス大賞です。
これからの繋がりです。
p120
二軍の選手でいずれ一軍にあがって活躍できる選手はほんの一握りだ。ほとんどの選手にはチャンスすら与えられない。ましてオリオールズは人気球団であり、毎年のようにFAやドラフトで有望な選手・新人が入団してくる。
p238
「確かに君が言うとおりだ。隆は葛城をやめさせようと考えていた。だが君もわかるだろう、あの男は監督として有能かな?」
「有能ではありません、残念ながら」
「そう、君が言うように残念ながらやつは監督としては無能だ。桂木は非常に気持ちのいい、好感の持てるいい男だ。私は現役時代の彼の熱烈なファンだった。よく葛城のプレイを見に行ったものだ。はつらつとしたいい選手だった」
p370
長谷川の投じた一球目を石綿が激しく叩いた。もう少し休ませてほしいなという私の願いもむなしく、鋭い打球が左中間を切り裂いていく。長打コースである。私は残った体力のすべてを出し尽くして走った。やぶかぶれに近かったが、一方でここでなんとか一点取れば、俄然有利になることは事実だ。
p389
「沢村」葛城が言った。「あの試合でおまえに交代を命じたのはおれのミスだった」
私は自分の耳を疑った。彼が自分の失敗を認めるのをはじめて聞いた。