「鋼鉄都市」の続編です。蔵書から。
まず解説から引用します。
本書「はだかの太陽」は、200冊を越えるアシモフの膨大な著作の中にあって、日本のファンには長らく“幻の名作”といってもよい存在であった。特に十代、二十代の若い読者にはそう感じられることであろう。
もちろんこれが初訳ということではない。
筆者がハヤカワ文庫で本書を購入できたのは1984年、20歳の時でした。つまり、筆者は「特に十代、二十代」のど真ん中でした。
ハヤカワ銀背が姿を消してからハヤカワ文庫にとって代わりましたが、中にはSF入門書に「SFファン必読」とされていながら、なかなか文庫に入らず幻の名作となった本が少なからずありました。本書は、その一冊です。
なので、鋼鉄都市は5回も6回も読んだはずですが、本書はこれが2回目ではないかと思います。
これ以外では、筆者が非常に記憶に残っているのはオールディスの「地球の長い午後」があります。これが文庫化されて本屋に平積みになっているのを見つけた時の感動は今でも鮮明に覚えています。旭川の富貴堂書店。
これら以外に、シマックの「都市」とか、スタージョンの「人間以上」とか、結構、いろいろな重要名作がアクセスできなくて口惜しい思いをしたものです。ディックの「火星のタイムスリップ」、「宇宙の眼」、「高い城の男」なんかもそうでした。当時はディックと言えば、「偶然世界」か、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」か、「ユービック」だったものです。後にサンリオがじゃんじゃか出し始めて状況は様変わりしましたが‥。
p22
「長期的に見れば、なんだって不安定でしょう」
「こいつは短期的に見ても不安定なのさ。最大限に見つもっても、われわれには百年しか残されていない」
p78
かれは引きさがった。べつに、まったく無駄騒ぎだったわけでもない。ロボット化された社会がいかに非情なものか、いまの小事件でもよくわかった。いったん社会に組み込まれたロボットは、そうかんたんに排除できない。ロボットなしで生きたいと望んでも、一時的にせよ、人はそれが不可能なことを思い知るのだ。
p89
「かれがあなたを見ることはあったんでしょう?」
「それは普通は話題にしないことすけど、ええ、かれがわたしを見ることはありました」
「お子さんはありますか?」
グレディアが飛びあがるように椅子から立ちあがった。明らかに、すっかり興奮していた。
「それはあんまりよ。いくらなんでも、無作法にもほどが‥」
p98
「かれの意思ではなかったかもしれない。相手が一方的に、ご亭主のなにも知らないうちに、押しかけてきたのだとしたら、どうなったかな? いくら習慣を重んじる人でも、その侵入者と会わないわけにはいかないと思うけど」
p106
「彼女は地球を研究したのですから、地球人のもっているある弱点に気付いたと考えて、まちいないと思います。つまり、彼女は裸体のタブーを知っていたし、あのように見せびらかすことが地球人にどんな印象を与えるかも知っていたにきまっています」
p147
妙なことがもう一つあった。どういうわけか、頭上から太陽の光が降りそそいでいた。見あげても、上の改装の湾曲した基底部しか目に入らないのに、それでも陽光が降りそそぎ、すべてを輝かしく照らしつけ、しかも怖がっているものなど一人もなかった。
p190
「デルマーはどんな男でしたか?」(不思議なことに、この男の名がベイリの脳裏にグレディアの姿を呼び起した。怒りに顔をゆがめ、猛々しく自分を見すえたあの最後に見たグレディアの姿が、不意に鮮明に浮かんできてかれを悩ませた)
p197
「‥まあそれはともかく、以下のような結論にわたしは達したわけであり、結論の正確さにいっさい疑点はないとわたしは確信しております。つまり、ロボット労働力を受け入れたあらゆる経済で、対人ロボット比は、それを妨げようとどんな法律が通されたにしても、着実に増加していく傾向にある。この増加は遅らせることはできるが、決して止めることはできない。
p222
ベイリは言った。「進化とどう関係があるのかな?」
「わからないかしら? 各個体は、種の進化史をたどり直しながら成長していく。向こうのあの胎児たちには、鰓や尻尾のくっついている時期があるわ。そういった段階を飛び越えることはできないのよ。同じように、年長児たちも社会性動物の段階をくぐり抜けなきゃならないわけ。でも、進化が一億年かかって通ってきた段階を、胎児がたった一月でくぐり抜けられるんだから、われわれの子供だって社会性動物の段階をあっというまに通り抜けられるのよ。デルマー博士は、この段階をくぐり抜ける速さは、世代ごとに速くなっていくはずだとおっしゃっていたわ」
p259
「ぼくの推理は、いまお聞かせした。ぼくが知りたいのは、この方法が可能かどうかだ。二台のロボットが、それ自体としてはまったく無害な、二つのべつべつな行為を行い、その二つが合わさって結果として人を殺す、これが可能かどうかだ。きみは専門家だ、リーピッグ博士。これは可能だろうか?」
すると、リーピッグは苦悩に顔をゆがめて言った。「可能だ」
p313
さて、これまでに諸君のほぼ全員が、ぼくに対して、グレディア・デルマーがこの犯罪の犯人であると思うと証言した。少なくとも、べつの容疑者を指摘した人物はひとりもなかった。では、グレディアに動機があるだろうか? リーピッグ博士は、一つの動機を示唆された。博士はグレディアが夫としばしば口喧嘩をしていたと証言され、のちにグレディアもぼくに対してそれを認めた。口喧嘩から激怒が生じ、それが人を殺人に駆りたてるということはあり得る。十分にあり得る。
p320
「だから、不可能なことを消去していけば、あとに残ったのが、いかにあり得ないことのようでも、事実だということは明らかではないだろうか? つまり、犯行現場に在ったロボットが殺人の凶器だ。社会人となるために受けた教育のせいで、諸君のうち誰一人として気がつかなかった殺人の凶器だ」
p340
「かれらの弱点は、閣下、かれらのロボットとかれらの低人口、そして、かれらの長命なのです」
ミニムが表情を変えずにベイリを見つめた。両手が、机上の書類に沿って、なにか指で落書きでもするように動いた。「きみがそのように言う理由は?」
p349
「ありがとうございます。しかし、それだけでは、ぼくの気持がすみません。ぼくはあなたに聞いていただきたい。われわれが袋小路から抜けだせる道はたった一つしかありません。それは外へ、宇宙への道なのです。あそこには百万の惑星があり、宇宙人が占拠しているのはそのうちたった五十です。かれらは少数で、寿命が長い。われわれは多数で、寿命が短い。つまり、探検や植民にはかれらよりわれわれのほうが向いている」
最後の引用を読んで、「永遠の終り」を思い出しました。永遠を捨てて銀河帝国への道を選んだ時と同様に、此処ではシティを捨てて銀河帝国への道を選んだのです。
銀河帝国ではこう言われました。「すべての道はトランターに通じる」