久しぶりの大富豪同心です、図書館。
ずっと世直し衆が悪役ですが、この巻は前半と後半で別の話しになっています。
前半は由利之丞の軽業師時代の兄貴分が世直し衆の鍵開けをやっているのを、軽業師仲間で成敗する話し。
後半は世直し衆の火薬師が利根川の堤を爆破して江戸を水びたしにしようとする話し。この火薬爆破を近在の者が火を噴く怪物だと見誤る話しです。
p34
「お前ぇも元は軽業師のけいこを受けていた身だ。掟は知ってるだろう。盗っ人に身を落とした軽業師は、オイラたちの手で成敗しなくちゃならねぇ」
p66
市村座の芝居茶屋に向かっていく。一般客は芝居小屋の木戸から入るが、上客は、市村座に併設された茶屋から入るのだ。
「同心様のご詮議ですから、楽屋口から乗り込むのが常道じゃねぇんでげすか」
芝居を見に来た客ではないのだ。しかし卯之吉はまったく無頓着い茶屋に入ってしまった。
p121
「南北の町奉行所に市中見回りの同心は二十四人しかおらぬ。少人数で江戸中に目を光らせることができるのは何故か。目明したちを雇っておるからだ」
同心には手先となる者がいる。目明かし、岡っ引き、下っ引きと呼ばれる人たちだ。
p136
沢田は何度も眉根を寄せて、首を傾げてから、話しだした。
「そなたは、そのう‥知っておるのか?」
「なにをです」
「あー、菊野が、だな‥」
「菊野さんがどうかしました」
「花嫁修業をしておる」
「花嫁修業?」
「本人がわしにそう言ったのだ」
「お嫁入りが決まったんですか」
「嫁入り先は、だな‥」
沢田は頭を抱えて「うわーっ」と唸った。
「み、三国屋なのだ」
美鈴も仰天した。
「というと、お相手は?」
「卯之吉に決まっておろうが! お前はどうするのだっ。それで良いのかっ」
美鈴は首を横に振った。
p245
「あなた様は病人にはとてもお優しいのですね」
「そうですかね」
美鈴は、卯之吉からこんなに優しくしてもらったことがない。
美鈴はたいへんに寝付きが良く、どんなに悩んでいても夜はぐっすりと就寝し、朝には元気一杯に目覚めてしまう。
(それがよくないのだろうか‥)
p320
利根川から溢れ出た水は新田へと流れ込んでいる。新田はかつての湖沼に戻ってしまった。だが、古くからある村と田畑はいくらか救われた。