トランターノベルの3冊目です。

寡聞にして、本書が眉村先生の「消滅の光輪」をインスパイアしていたことを認識していませんでした。
惑星フロリナでだけ栽培できる同重量の金よりも高価な天然繊維カート。
本書ではまず惑星フロリナの恒星が近い将来に超新星化することを導き出した空間分析家が、そのことを知らせようとして陰謀に巻き込まれて記憶を失わされる所から始まります。惑星フロリナの農村で目覚めた彼は、記憶処理の副作用で知的障碍者状態で目覚め、その地を管理する司政官に保護され、地元の娘に世話をしてもらうようになります。
その彼が記憶を取り戻し始め、とても重大なことを知っていたという漠とした記憶をベースに娘と司政官と三人でカート貿易の利益を守ろうとする貴族、カート交易を守ろうとするトランター帝国と対峙していくという話しです。
「暗黒星雲のかなたに」で書いた通り、冒険譚としては無力な記憶喪失者とその保護者達が主人公の方がずっとドキドキさせられます。
また、フロリナ貴族とトランターのエージェントは、対立する側面もあるのですが、カート利権が大事だという点では結託しており、そこらへんの陰謀バランスゲームも面白く描かれています。
トランター三作の中では、中学生時代は「宇宙の小石」が好きでしたが、今回まとめて再読すると本書がいちばん出来が良いと感じました。
p8
「惑星が一つ破壊されることの何がデリケートだというんだ。全サークに詳細を放送してもらいたいんだ。この惑星のすべての人たちにね」と、地球人はいった。
「そんなことはできない。そんなことをしたら、大混乱が起こってしまうことぐらい、あなたにもわかってるでしょう」
p18
ヴァローナは、読み書きと、工場の機械を操作するにたりるだけの実業学校の技術教育しか受けていなかったが、すべての人がそんなものではないことを知っていた。もちろん、司政官のように、その豊かな知識がすべての人々に役だっているような人もいた。時々、貴族が巡視にやって来た。
p45
市は、約二万本の鋼鉄をまいた柱の上にのった、五十平方マイルのセメント合金の水平な層によって二重にわけられていたので、上部地区というのは、文字どおり、上部地区だった。下の陰の部分には、“原住民”が住んでいるのだ。上の陽のあたる場所には、貴族が住んでいた。上部地区は、そこがフロリナだとは思えないほどだった。住んでいるのは、巡邏隊員がすこしと、あとはほとんどサーク人だった。彼らは文字どおり上流階級なのだ。
p102
かつてのといっても、滅びてしまったわけではなかった。トランター共和国は、五百年前には、たった五つの世界でしかなかった。
しかし、この地図は歴史の流れとともに変化する地図で、ダイアルをゼロのところにあわせると、五百年前の状態を示すようになっているのだった。一目盛りだけダイアルをまわすと、その五十年後の銀河系が現れ、トランターの附近にあるいくつかの星が赤く輝いて見えるのである。
十段階で五百年が過ぎ去ると、血のあとが広がっていくように深紅色が広がって、ついには全銀河系の半分以上が赤く染められていた。
p144
トランターはフロリナを欲しがっていたし、他の諸世界もフロリナに触手をのばしてきた。数世紀にわたって、宇宙の支配者たちはフロリナを求めて策動してきたのだ。しかしそれを掴んだのはサークだった。サークは、フロリナの支配権を放棄するくらいなら、全銀河系戦争さえ辞さなかっただろう。
トランターはそれを知っていた! トランターはそれを知っているのだ!
p306
「最初からリックを見張っていた人が一人いたんです。その人が彼を見つけて、あたしが面倒をみるようにし、彼がごたごたにまきこまれないようにしたんです。毎日彼のやることも知ってました。あたしが話したから、医者の事も全部知ってたんですよ、その人は。それはあの人だったんです! あの人だったんですよ!」
声を振りしぼりながら、彼女の指ははっきりと司政官、マーリン・テレンスに向けられていた。
p317
ところで、リックの理論はこうに違いないと思うんですよ。水素からヘリウムへの直接の変換が、星の普通のエネルギー源なのだが、ある種の条件の下では、炭素触媒がその重要性を増し、その過程を急がせ、スピードを増して、星を熱する、という考えです
p321
もしトランターがフロリナに何らかの手もうたなかったら、すなわち、住民が住んでいるままに、フロリナが気体と化すことを許したら、全銀河系の人々は、もし自分たちの番がきても、少数の有力者の経済上の便宜の妨げになる場合には、何らの援助も期待できないかもしれない、と思い込んでしまいますよ。そんな危険を冒してもいいんですか、アーベルさん?
一方、フロリナを救ってごらんなさい。トランターは、自己の便宜を超越して、全銀河系の人々に対して責任をもっているということを示すことになるんですよ。トランターは、武力ではけっしてえられない好意をかちえますよ」
p322
「この会話も、どうやら核心に近づきつつあるようですね、ファイフ卿。カートは、人の住んでいるすべての惑星の中で、フロリナだけに育つんです。その種は、他の土地では普通のセルロースになってしまうんですよ。フロリナは、現在ノヴァ前期にある、おそらく唯一の人間の住んでいる惑星なんです。そして、交差の角度が小さいとすれば、数千年前に、はじめて炭素気流に入った時から、おそらくずっとノヴァ前期にあるんですよ。とすると、カートとノヴァ前期の状態とが重大な関係をもっているということが、大いに考えられるんです」
p325
「おい」ジァンツはいった。「ISBと契約が結べると思うんだ。フロリナで働く男が一人ほしいんだよ-フロリナ人をよく知り、事実をどう彼らに説明したらいいか、この疎開計画をどういうふうにしたらもっともいいか、もっとも疎開に適した惑星をどういう風に選んだらいいかを、われわれに教えてくれられる男がね。われわれの手伝いをしてくれるか?」
p330
「最後の一人は、いつフロリナを離れるんです?」
「離れないんだよ」
「どういうことですか?」
「あの司政官が、残留許可を非公式に願い出たんだ。それが非公式に許可されたのさ」
「しかし、いったいどうして?」
「今までわからなかったんだ。しかし、君が地球について語るのを聞いていて、わかったような気がするんだ。君と同じように感じてるんだよ。フロリナをお一人で死なせるなんて、耐えられないっていうんだ」