春暮康一のハヤカワSFコンテスト優秀賞受賞作品。単行本、図書館。

こちら
を読んで良かったので借りてきました。
自然発生型生命と、人工機械型生命とが共存する世界観と言えば、スターリングの工作者シリーズが有名です。他にも新ハヤカワSFシリーズ劈頭を飾ったウェスターフェルドのリヴァイアサン三部作も思い浮かびます。
それらが機能的な部分に着目していたのに対して、本作は知能という部分に注目しているのが特徴です。
自然発生型知性の同盟であるアライアンスと、それが作った人工知能が閾値を超えて知性と見なされるものが合流したストリームが登場してきます。
著者は生命工学が専門だそうで、その洞察はかなり深くに及んでいて、時に難解に過ぎるのですが、確かに興味深く読めます。
アライアンスの5種族が、新たな知的生命体を探して、非常に奇妙な軌道を構成している星系を探検する話しです。
一部の惑星が、主惑星の軌道間を接続するような長楕円軌道を描いているのです。
その機能は? それを作ったものの意図は?
p8
わたしを含めて五種族。「ビットマップ」。「ダンサー」、「マグネター」、「スピンドル」、そして太陽系人類。船はどれも奇抜な見た目で、入り組んでいたりのっぺりしていたり、有機的だったり流動的だったり、大きかったり小さかったりした。
p20
こときれた肉食獣を、彼は見下ろした。もう嚙みちぎることも、追いかけてくることもない。片手には、「牙」がにぎられ、血がぽたぽたと垂れている。
p30
この異常惑星の成り立ちについてはともかく、役割については-ただのモニュメントでないとして-チーム一致の見解がすでにあった。それは、恒星の重力井戸を効果的に上り下りするためのエレベーターに違いない。
普通、惑星からより外側の惑星に飛び移ろうと思ったら、恒星の大きな引力に逆らって坂道を駆け上がるように飛ばなければならない。そのたびに大量の推進剤をまき散らして宇宙をほのかに温めるのは、まったくもって不経済というものだ。しかし、ピアソンをはじめとする惑星群は、隣り合ったふたつの惑星軌道間を定期便のように往復していて、載っていれば何をせずとも低軌道から高軌道まで押し上げてくれる。
p54
いまではあらゆる労働力が、地球脱出のために費やされていた。粘油の採掘と精製。鉄鉱石の採掘、宇宙船の建造、その他すべての付随工程。以前はそこに膨大な量の算卓計算がついていた。何年か前、どこかの天才が蒸気で動く計算機を開発してからは、計算要員はその機械を作る仕事に乗り換えた。
p73
「擬晶脳」は、異質かつ刺激的にふるまう知性体のシミュレーションを命じられた。これは簡単なことではなく、「擬晶脳」を動かす仮想プロセッサの構成を八分の一近くも変更する必要があった。シミュレーションは力ずくで愚直なやりかた、つまりランダムな進化によって行われたから、生まれた知性体はたしかに典型的なエイリアンだった-
p83
卵核には遺伝子を読み取る能力の他に、構造を組み替える能力も備わっていた。突然変異と自然淘汰は、とんでもなく迂遠な道のりでしか進化を許さない。だが、知能が目的をもって自己を設計するなら、種は最短の経路で改良されるだろう。
p134
地球からミューエまでたどりつくのは、第四惑星を使えば簡単なことだった。地球とミューエの軌道を繋ぐような楕円軌道を描く跳躍惑星。公転面が大きく傾斜しているから、長い時間をかけて夜空を縦横に跳び回る。およそ七年の公転周期は、賢類の寿命に対して長すぎず、系内開発のペースにも合っていた。
単行本化にあたって同時収録された短編
虹色の蛇
電荷を操作して空中を移動する微小生物からなる群体生物「彩雲」の話しです。
こちらの方が、アンソロジーに入っていた「竜は禍に棲みつく」に近いでしょうか。
主人公は異なる起源の生命体の通訳をするために、様々な感覚を圧倒的に強化しており、「彩雲」の起こす雷を予測して観光客をガイドする商売をしています。この能力は普通の市場では出回っていないことから同業他者の羨望と妬みを買っているというお話しです。
独特の奇妙な生命体。その生命体が住む殺伐とした風景の惑星で世捨て人のように暮らす主人公。
個人的にはこちらの短編の方がずっと好きになれました。
p206
これもいい薬だ。人間は平穏無事な状況に慣れ過ぎていて、どんな苦痛も、慈悲深い法律家制度によってコントロールされた範囲でしか与えられないと考えがちだ。実体を持つ生きたオーロラを見たいだけなのに、わざわざ興を削ぐような警告に耳を傾ける者などいるはずもない。
p212
「フランコか。ずいぶん粘ったじゃないか。すぐそこまで「雲」が来てたろう」
「いや、ガレージでちょっとごたごたがあってね」
「あまり同業者を刺激しないほうがいいぞ。やつら、おまえが自分たちと何分差でここに来るかをやたらと気にしてる。連れてる客の満足度に関わるからな。」
p231
「やつらは電荷を操作して、帯電した群れのなかをかなり自由に動き回ることができる。それを全粒子がやるのだから、「雲」全体が変幻自在にかたちを変える」
「そうやって群れどうしで戦うわけ?」
「戦う? まあそうだ。「雲」は光合成をするから、基本戦略は上をとることだ。そうすれば自分たちはエネルギーを得られるいっぽうで、相手の日照をさえぎって動きを鈍らせることができるからな」
p255
ワイヤー網は人工的な「誘電樹」なのだ。それも、本家よりずっと洗練された。
トレーラーの避雷ロッドは、周囲の電位を強制的にアース近くまで押し下げ、あるいは引き上げることができる。いわば力任せの抑圧だ。安全を確保するが、肝心の「彩雲」をばらばらにしてしまう。それでは意味がない。
だからきっとこのワイヤー網は、もっと精妙な働きをしているに違いない。空間の電位配置を監視し続け、その傾斜がきつくなりすぎると-破局的な放電へと滑り落ちる限界勾配に近づくと、電荷を少しだけ中和するのだ。
p271
「でも、そんなことしたって-」
「「雲」になんの得もないと思うか? それが間違いだ。これまでおれたちはずっと思い違いをしてきたんだ。「雲」は「誘電樹」から逃げるのに失敗したから放電してしまうんだと思っていた。望まざる破局なんだと。だが本当はそうじゃなかった。放電には理由があって、やつらには必要なことだったんだ。放電させずに電荷だけを奪うものが現れると、ぶち壊すためにこうやって集まるんだ」
地球上で雷が、不活性な窒素分子を強制的に酸素と結びつけ、植物が利用可能なかたちに変換しているのと同じように。「緑」の土中にはアンモニアを生み出す微生物がいないことを考えると、放電による窒素固定は光合成をする「彩雲」にとって生命線と呼べるものなのかもしれなかった。