☆福家警部補の再訪を読む

 図書館です。
 本書を借りて来て読み始めたら、あれどこかで読んだような? そうです、「福家警部補の災難」が「マックス号事件」と改題されて収録されていました。なんだ、それならまっすぐこれを借りて読んで済んでいたのに‥ブツブツ。
 「失われた灯」
 連ドラ版の第1回で反町隆史を犯人に迎えて映像化された一編です。
 でも、全然ストーリーを覚えていなくて、楽しく読ませてもらいました。
 犯人は脚本家で、自分のおっかけの役者志望の男を利用して狂言誘拐の声をやらせ、自分は犯行時刻には誘拐監禁されていたという鉄壁のアリバイを作り上げます。
 ただ、コロンボシリーズでも思いますが、「こうした工作」の工程数が増えるほどに、ぼろが出る機会も増えてしまうという残念な事実があり、犯人のアリバイは破られてしまいます。
 「相棒」
 これも連ドラで犯人に板尾創路を迎えて映像化されました。

 ドラマ版の方がエンディングの哀愁が強くて良かったという微かな記憶がありますが、どういう風に違ったかは覚えていません。
 本編では、ワーカホリックな福家が意外な趣味を持っていることが明かされて、人物像に味わいが出て来ています。
 両国演芸場のオールナイト興業の回数券を持っているなんて、びっくりさせられました。
 「プロジェクトブルー」
 特撮フィギュアの話しです。これも連ドラで犯人に北村有起哉を迎えて映像化されました。
 主題とは関係ないのですが、丸吉のソフビ怪獣「ミリバール」がスーパーレアアイテムで暴騰しているという話しには笑ってしまいました。形状から見て、ほぼほぼ「帰って来たウルトラマン」のバリケーンのようです。

 この故物取引関連の情報を得るために福家が呼び出すのが、「失われた灯」にも出てきた新開だというので、福家の情報網の一端が開示されているのが嬉しかったりします。
 個人的な意見ですが、犯人の新井が、ブルーマンの変更企画案7件すべてに対応した造形を準備したというのが信じ難いです。だって、没案の造形は証拠にならないように完全廃棄しないといけないのですから、そんなこと造形屋さんにできるのでしょうかね。
 実際、最後に採用案のフィギュアを燃やしてしまうぞと福家を脅しますが、福家に「あなたにそれができますか?」と問われて、「いや、ぼくには無理だ」と諦めます。造形屋さんの、自分の快心作に対する思い入れはそういうものだと思います。その意味で、このトリックには最初から自己矛盾があるのではないかと思いました。

p81

「すみません。もう閉店‥」

 白石は口を閉じた。入ってきたのは、見覚えのある女刑事だった。

「あれ、福家さん。ごぶさたでしたね。あの事件は解決したんでしょう?」

「ええ、おかげさまで」

「何だ、犯人を逮捕したら飲みに来るって約束したのに」

「ごめんなさい。いつも事件に追われているものだから」

「物騒な世の中ですからね。あれ? すると今日も事件絡みで?」

「辻伸彦という人、知らない?」

「よく知っていますよ。常連の一人なんです。ここのところ毎晩いらしてます」

「辻さんの電話を調べたら、マ一にここに電話していることが判ったの。どういうことかと思って」

「本日のおすすめの確認ですよ」

「お薦め?」

「三日前からドイツビールのフェアをやってるです。とびきり珍しいビールを常連さん限定でこっそり振舞ってたんですがね‥」

p107

 自動ドアの開く音がして、小柄な女性が入ってきた。洗濯物の入った袋を持ち、左右に並ぶ棚をきらきらした目で見ている。

「あら、頓田十絽兵衛監督の『偽金万歳』がある!」

 森藤は驚いた。『偽金万歳』に目を留める客など久しぶりだ。その映画はカルト的な人気を誇りながらビデオは廃盤、DVDにもなっていない。レンタルで置いているのはウチぐらいだろう。

「すごいわ。小柳信二朗監督の『借金地獄は蜜の味』去年、栃木の名画座まで観に行ったっけ。オールナイトで」

 森藤は大きくうなずいた。

「私も行きましたよ、そのオールナイト」

p154

「被害者は内海珠雄、五十一歳。どうやら二階ベランダから転落したものと‥」

 二岡を遮り、福家が言った。

「内海珠雄って、つまり‥山の手くだり?」

「ええ、ご存知でしたか」

「もちろんよ。両国の演芸場で何度も観たわ

 オールナイトの回数券があるの。十三枚つづりで一回分お得なのよ」

「警部補が演芸場に?」

p214

「あの、刑事さん?」

「これ、ブルーマンですよね」

「お判りになりますか。刑事さんもこの手の番組がお好きなんですかな?」

「『ブルーマン』は毎週欠かさず観ています。なかなか家に戻れないので、録画ですけれど。このブルーマンは新井さんが作られたのですか?」

「ええ。今朝、来期商品展開に関する会議がありましてね。このフィギュアを叩き台にしたイメージフィギュアを販売しようと考えているんです」

「素晴らしい造形ですわ。でも、テレビで観るものとは、少しデザインが違いますね。ブレスレットなんてしていませんし、顔つきももう少し柔和です。腰のあたりのストライプも変わっていますわ。テレビでは8の字形ですけれど、このフィギュアではM字になっています」

 荒井は驚いて福家を見た。

「よく見ていらっしゃる。これはまだ部外秘なのですが、来季のブルーマンはパワーアップします。マスクの形状で全体的なラインが変わるんです。このフィギュアは新デザインの検討用です。メーカーやテレビ局が一体となって挑む、リニューアル企画。名づけて『プロジェクトブルー』」

p227

 東京駅八重洲口の改札を出たところで、新開栄は目的の人物を見つけた。

「やあ、お待たせしましたな」

「お忙しいところすみません」

 福家が頭を下げた。

「いやいや、たまたまこっちに来る用事があったんや。あんたの方こそ忙しそうやがな」

「この何日か徹夜が続いているだけです」

「それを忙しいと言うのや」

中略

「またお茶飲みましょうな。クリームソーダでもええで」

「はい、ぜひ」

 新会は再び歩き出す。やれやれ、あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで。

p231

「中には、わざわざ依頼を受けて撮影現場に侵入、依頼品を盗みだす輩もいるとか」

「へえ」

「警備が厳しくなった『ブルーマン』は落ち着いたみたいだけど、最近は『マスターレンジャー』が被害に遭っているらしいわね」

「一課のくせにけっこう詳しいね」

「管轄は違うけれど、『ブルーマン』も『マスターレンジャー』も毎週観ているわ」

「真顔で冗談言われてもね」

「盗品の売買は冗談事じゃないわよ」