☆黒き剣の呪いを読む

 1からワープして5巻です。

 2,3,4はエルリックが単独行で冒険するのですが、古の記憶では割とリーダビリティが悪くて眠かった記憶が。ストーリーが大きく動くのは、ここからだったと思うので一気に此処へ。ネットでも裏技の読み方として、1と5と6を読めば語れるという意見もあるようです。そもそも今回の最大の目的は、買ったまま読んでいない8巻「薔薇の復讐」へ辿り着くことなので、完読にはこだわりがないのです。
 ただ、今回読んでみたら1巻も本巻も意外なほど読みやすくて、これなら全部よんでも良かったのかもとも。
 この巻では、エルリックの二人目の妻、ザロジニアが登場します。
 この巻は4篇からなりますが、最後の篇はエルリックと別れてタネローンを探し求めていったラッキールが再登場。タネローン市民としてタネローンを守るための探索の旅に出るという番外編です。
p15
「われらは貴殿の剣士として、魔術師としての得意な腕を必要とするのだ。エルリックどの。むろん心づけはたっぷりとはずむぞ」と主に口をきくのはピラルモ、瘦せ型でいささか身なりを飾りすぎたきらいはあるが、その口調は熱っぽい。
p33
 ディヴィム・トヴァーは一礼すると、椅子の一つを無言でさし示した。エルリックは腰を下ろした。
「そなたはわたしのことを、売国奴、盗っ人、同族殺し、国民の殺戮者と思っていよう、竜使いよ」
「申しにくいことながら、さようでござりまする」
p37
 時間と空間を越えた彼方、煙くすぶる穴のひとつで、ある生き物が身じろぎした。あたりいちめん影がうごめく。それらは人間の魂で、まばゆい闇の中を動いてゆくその影らは、生き物を支配していた。生き物は-かれらが対価を払うかぎり-支配に甘んじる。人の言葉では、その生き物には名があった。クァオルナルグンと呼ばれ、その名で呼ばれれば反応する。
 いま、生き物は身じろいだ。名を呼ぶ声が聞こえたのだ。
p41
「アリオッチ!」
 呪文を唱えているひまはなかった。クァオルナルグンは眼前にせまっている。巨大な緑の蛙めいた姿が、地上にあることの苦痛に呻きながら、おぞましくとびはねてくる。怪物はエルリックの上にそびえたち、白子は十フィート以上の距離にいながら、その影にすっぽりのみこまれてしまった。
p68
 エルリックはディヴィム・トヴァーをふりかえった。かれはまだ立っていたが、色蒼ざめ、傷から血が滴り、着物を濡らしている。
「傷は深いのか?」
p76
「やめろ!」エルリックは剣をひきとめようとしたが、果たせなかった。ストームブリンガーは、ニコーンの偉大な心臓にくい入り、悪魔のような勝ち鬨をあげた。「やめろ!」エルリックは柄をつかみ、ニコーンの身体から引き抜こうとした。商人は地獄の苦悶に叫んだ。ふつうならすでに絶命しているはずだった。
p78
 ピラルモは渋面をつくった。奴隷たちが自分の宝物の箱をうんうん運びだし、広壮な屋敷のそばの通りに積み上げているのを、固い面持ちで見つめている。市の他の場所では、ピラルモの三人の仲間がそれぞれ胸のつぶれる思いを味わっているはずだ。かれらの財宝も同じやり方で扱われつつあった。バクシャーンの市民は誰が身代金を払うか、決定を下したのだ。

p94
 彼女は感謝したが、その眼には警戒の色が浮かんでいた。
「さてこちらが名のった以上」エルリックは言った。「あなたもお名前とこれまでのいきさつを教えていただきたい」
「わたしはカーラークのザロジニア、南東イルミオラで最強の部族ヴォアシューンのものです。ピカレイドの海岸の貿易都市に身寄りの者がおりまして、従兄二人と叔父といっしょに、そこへ参りました」
p99
「わたしにも自信はあります、エルリックさま」
「そなたの自信は若さからくるもの、別物だ。そなたは気丈だな。それは認める」
「では折れてくださいますわね、メルニボネのエルリック」
 かれは折れた。彼女を飢えたように抱きしめ、情熱よりさらに深い渇望から口づけた。初めてイムルイルのサイモリルのことは忘れられ、ふたりはやわらかな芝草の上に倒れ込んだ
p127
 ヴィールカドはふりかえった。盲目の顔が、邪魔の入った怒りに燃えている。
 一刻のためらいもなくフルドは、ヴィールカドの体にずぶりと剣を突き刺し、柄まで埋めた。血塗られた切っ尖が背からあらわれる。だが、ヴィールカドは断末魔の痙攣のさなか、うめきながら両手で王子の喉元をわしづかみにした。その手は万力のようだった。
p131
 ヴィールカドの不気味な歌が、エルリックの記憶の中にこだましていた。闇の三王-ガセラン、ヴィールカド、そして「丘の王」。いまや最後のものが残るのみ-千年も昔に死を得たものが。
p139
 凍てつくような風に、血塗られた嘴の鷹たちが待っていた。「嘆き野」をじりじりと進んでゆく一群の騎馬隊の上、はるかな天高く。
 一行はすでに二つの砂漠と三つの山を越え、飢餓がさらにかれらを先へ先へと駆りたてていた。それに拍車をかけるのは、東方の故国にやってきた旅人たちの物語の記憶と、先頭に傲然と馬を進める薄い唇の指導者の鼓舞鞭撻だった。
p165
「破壊者ダグ・ガデンよ」ドリニジ・バラは唱えた。「汝はわれらと古えの約定を結べり-われに従うや?」
「然り、よってわれ欲す。そなたの命は如何?」
「汝、この町の城壁をあとかたもなくし、甲羅を失いし蟹のごとく、中の人間を裸にせよ」
p186
「どうなさいましたの、あなた」かれが溜息とともに、ぐったりと大寝台に身を投げだすと、ザロジニアは尋ねた。
「わたしは剣と魔法に飽いたのだ、ザロジニア。それだけだよ。だが、ついにわたしは、永遠にになわされるものと思ってきた、あの地獄の剣を捨ててきた」
「ストームブリンガーのことですの」
 彼女は無言だった。その剣が、どうやら己れの意思で泣き叫びつつカーラークに入って来て武器庫の元の暗がりにおさまっていることを、言おうとはしなかった。
p194
「おぬしは忘れているな」ブラットがけだるげに言った。「やつらを率いるのは「混沌」のナージャンだ。やつは人間ではないし、後ろには「混沌」の全勢力がついている。確かに「灰色の神々」は「法」にも「混沌」にも忠誠を誓っておらんが、気まぐれでひょいとどちらかにつくことがあるのだ。かれらを押さえることだけだ、われらの希望は」
p196
 ラムサーはすべすべした岩の上に座っていた。「よくぞこられた、「赤き射手」よ。わしに何かお尋ねがあるのであろう。見ればお急ぎのごようす」
「「灰色の神々」の力が借りたい、ラムサー」ラッキールは言った。
p203
 やっと奇妙な大洋の岸辺に出た。
 灰色にうねる時のない海、永劫の中にひろがる神秘的な海だった。その波高い海原の彼方に、岸などはあるべくもなかった。陸地も、川も、暗く冷たい森も、男も女もない。これは無の中に注ぎこむ海だった。それ自体で完結したもの―ひとつの海―であった。
p208
 二人は階段をのぼって、下と同じだがやや小さめの広間に出た。だがここには中央に、半円を成すように、十二の大きな玉座が並べてある。戸のそばの壁には、紫の布を張った椅子がいくつか寄せかけてある。玉座は黄金で、見事な銀細工に飾られ、白布で詰め物がしてある。
p221
 使者は喘ぐように、「カーラークに援助を求めました。が、予期したとおり、タネローンのことなど聞いたことはないといわれ、逆に、わたしこそ乞食軍の間者で、カーラーク軍を罠にかけにきたかと疑われるしまつでした」
p234
 そのとき、ナージャン神はキレネーを呼び出した。
 嵐をふくんだ雲さながらの大きさで、地獄そのもののように黒いキレネーは、大気中から湧きだして、形のないまま、クセルレルネスの船団のほうへ漂ってゆき、毒の触手を何本もさしのばした。裸の体に触手がからみつき、締め上げて押しつぶす、船曵との呻き声があがった。
 ラムサーは炎の精霊にせわしく声をかけ、炎の精霊たちは乞食を貪りくらっていた地上から再び上昇すると、集まりあって巨大な炎の花となり、キレネーに近づいていった。
 二つの塊りがぶつかりあうと、「赤き射手」の目もくらむほどの爆発が起こった。