○ランクマーの二剣士を読む

bqsfgame2005-09-05

ファファード&グレイマウザーの最終巻。短編主体のシリーズにあって、なんと420ページに及ぶ大長編。
今回は、ネズミたちの人間世界に対する大陰謀を描いている。このシリーズの特徴としてゲーマーとして痛感することは、非常にRPG的だということ。理由の一つとして、主人公たちが盗賊であって、世界を救う大冒険をしたり、一国の主に立身出世したりせず、毎回冒険しては手に入れたものを失って次の冒険へと出て行くところがあると思う。前の巻あたりでは、「ルパン三世」的なイメージを感じたりもした。手にしたものは全て消え行く、そしてまた次の冒険へ‥という感じだろうか。
そんな中にあって本巻では、二人がついに人間世界へのネズミたちの大陰謀から世界を救ってしまうのである。丁度、今まで単発の小シナリオを消化してきたパーティーが、ついに一大キャンペーンに挑んだというところだろうか。
最初の君主からの依頼による航海から滑り出し、そこから主人公二人が別の道に分かれ、一方は陰謀の渦中で危機に陥り、もう一人は辺境の旅路から他方の危機を劇的な瞬間に救うべく運命に引き寄せられて決定的な場面で登場する。正に絵に描いたようなキャンペーンストーリー。
そして、シリーズ全体に通じるライバーの独特のタッチの魅力は、本巻では円熟の境地に達している。ネズミたちの怪異としての不気味さ、それと戦うために呼び出されるランクマーの古き神々や死喰鬼やネコたち。中でも悪魔的な魅力を持つヒスベット、その娘と同床異夢の父親のヒスヴィン、そしてヒスベットに3つの願い的に縛り付けられている謎の小間使いフリックスあたりは、蟲惑的な魅力を放っている。それ以外の人物でも君主グリプケリオと、その倒錯した趣味を共にするサマンダ、その犠牲者でありながら単なる犠牲者ではなく物語りに絡んでくるリーサの三人組も重要。また、物語の最初にしか姿を現さない船乗りたち、リューキーン、スリアーヌらも魅力的である。また、シリーズ全体に登場する二人の主人公の後見人とも言うべき呪術師、シールバとニンゴブルも本巻では今までになく重要な役割を担い厚みを増した存在になっている。
シリーズの最後を飾る唯一の長編として、この本は魅力が満載されている。改めて、今まで日本語訳が3巻で止まっていたことが惜しまれ、また今回無事に翻訳されたことに感謝したい。
あとがきにあるSF百科事典の評価がシンプルにして見事に本巻の魅力を要約している。怪異エピソードの短編の魅力だった本シリーズが、奥深い怪異と冒険の物語に結実している。最初に書いたが、「指環物語」や「グインサーガ」のようなタイプのヒロイックファンタジーとは毛色がだいぶん違うが魅力的なシリーズだと思う。
特に1巻が不出来で5巻が出色なので、シリーズ当初で挫折する人も多いと思うので、少し誉めすぎかも知れないが大いに誉めて多少のモティベーションを喚起したいと思う‥(^_^;