☆昏き道行きを読む

 図書館です。

 前の巻が素晴らしかったのですが、いろいろな事情の積み重ねで、すっかり間が開いてしまいました。

 若君の代わりに英才教育を受ける卯之吉。
p26
「本日はあるきめんですの算法をご進講申しあげまする」
「あるきめんです?」
「さて若君様。こちらに小判をご用意いたしました。この小判は、実を申せば純金ではございませぬ。銀が混ぜられておりまする。さて、どれぐらいの割合で銀が混ざっているのか、お分かりになりましょうか」
 一方、卯之吉の代わりに同心としてバリバリ働く若君。
p54
「あっしの子分どもが聞き込んできた話だと、東仲町森田町に出やがったようですぜ」
 幸千代がうむと頷いて地図に筆を入れた。
 幸千代の背後から銀八が覗き込んで言う。
「なんだか、一本の線で繋がるみたいでげすよ?」
 病の床にある将軍様を診察することになる卯之吉
p108
「‥侍医の雪斎か」
 将軍は起きていた。息が苦しくて眠りにつくこともできないらしい。
「そちは知らぬ顔だな。何者じゃ」
「畏れながら、こちらにおわしまするは、上様の弟君幸千代様にございまする」
「なんじゃと」
 その男はヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべていた。
「お初にお目にかかります。ええとですね、こちらの先生はあたしの蘭学のお師匠様なんですが、なんと上様の御殿医で、今夜ご登城して宿直をお務めなさると聞いたものでしてね、どうしても上様のお顔を拝謁したくなって、ついてきちゃったんですよ」
 今回の陰謀では、偽小判で通貨不安を引き起こして米価を上げる絡繰りなのですが、なんと商業の統制も町奉行所の仕事だとは知りませんでした。
p144
 南町奉行所の内与力、沢田彦太郎がすさまじい形相で畳廊下を渡ってきた。
 本田出雲守の用部屋に入る。正座すると平伏し、息もつかず言上した。
「米価の値上がりが止まりませぬ!米問屋に対し、数日間の立用、すなわち取引の停止をお命じくださいまするよう、進言仕りまする!
 放置いたせば、貧しき庶民には買い求めることのできぬ値段となりまする。飢えて窮した町人が打ち毀しを始めましょうぞ」
「打ち毀しじゃと? 上様のご病床にまで市中の喧騒が聞こえるようなことがあってはならぬ」
「まさしく天下の一大事」
「だが、米問屋を止めることはできぬ
 先手を打たれた。富士島の局が『上様のご下命』とのたまって、米問屋を閉めることは許さぬと-申しつけてまいったのだ」
「それは‥まことに上様のお言葉なのでございましょうか!」
 クライマックスでは同心たちが富士島配下の旗本たちを取り締まろうと突入しますが、
p288
「町方は引けィ!われらは直参旗本! 町奉行所の詮議を受ける謂れはないッ」
「この期に及んで、まだ旗本風を吹かすつもりかッ」
 その時であった。幸千代が前に踏み出してきた。
「我は将軍家舎弟、幸千代であるッ。将軍家よりのご下命を言い渡す
 上様のご下命により、この幸千代が不逞旗本退治を仰せつかったッ。上様に代わりて南町奉行所の者どもに命ずる!悪党どもを捕縛せよッ。容赦はいらぬ!」
 シリーズで初めて、まさかの人が立ち回りを演じました。かっこいい!
p293
「江戸の町娘を騙るんじゃあないよ。あんたみたいな性悪女に江戸の町娘を名乗られたら、おおいに迷惑ってもんさ」
 外から威勢の良い啖呵が聞こえてきた。
「誰だっ」
 菊野が座敷に入ってくる。
「あたしゃ深川芸者の菊野って者さ。多くの御殿女中と深川芸者は江戸の娘たちの憧れだ。あたしら芸者は娘さんたちをがっかりさせねぇように、心の張りを第一にお座敷を務めてる」
「だから、なんだってんだいッ」
「娘たちの憧れのもう片割れの御殿女中に無様な真似を晒されたんじゃァ、黙っちゃいられないのさ! 女のあたしがケリをつけてやる!」
 菊野は小太刀をビユッと構えた。
「深川芸者と大奥女中、どっちが上か、勝負だよ!」
「しゃらくさいね!」
 お藤も懐剣を抜いた。キッと睨みつけ、菊野を目掛けて斬りつけた。菊野は華麗によける。長い袖が蝶の羽根のように広がった。菊野がお藤の脛を蹴る。「あっ」と叫んでお藤は転ぶ。菊野は馬乗りになって小太刀を突き出す。お藤の顔のすぐ横の畳にグサッと刺さった。
「顔だけは傷つけないでおくれ‥! 綺麗な顔のままで死にたいんだ!」
最期は菊野が奪った鍵で蔵を開けて真琴姫を救出、そして。
p300
「あなた様も同心様。真琴姫を助けに行かずともよかったのですか」
「お姫様は皆で助けるから大丈夫ですよ。あたし一人ぐらいは、美鈴様を助けにゆかないとねぇ」
 卯之吉はにっこり笑った。
 美鈴はいろんな感情がこみあげてきて自分でも抑えきれなくなり、卯之吉にしがみついて泣いた。
 悪党を退治した若君は、すっかり同心家業が板についてきて
p305
「そこでじゃ。わしは同心を続けようと思う。住吉屋藤右衛門の悪だくみはついえたが、世に悪党の種は尽きぬ。江戸の町を将軍の弟としてわしが守護する。一同、左様に心得よ」
 だが村田も尾上も玉木も低頭しようとはしなかった。
「なんじゃ。不承知か」
 村田が代表して答える。
「いかにも不承知。
 しからば申し上げまする。仰せの通りに、世に悪党の尽きることはございませぬ。我らは日夜奔走しておりまするが人手が足りず、荒海一家のごとき侠客の力まで借りるありさま」
「しからば、なにゆえかくも多くの悪党が跳梁跋扈するのか、その大本をお考えくださいませ。悪党どもは貧しき者ども。貧しい家に生まれ、貧しく育ったがゆえに読み書き算盤も教えてもらえず、それゆえに商人、職人などの正業に就くことも叶わず、飢えと貧しさに耐えかねて悪の道に手を染めまする。我ら、町奉行所の役人は、悪の道に堕ちた悪党どもを捕らえ、成敗することはできまする。ですが、人が悪の道に堕ちてくることを防ぐことはできませぬ。若君様!
 ですが、あなた様ならばおできになられまする!」
 やがて幸千代は大きく息を吐いた。
「そのほうの申すこと、もっともじゃ。諫言、身に染みたぞ。いかにもわしの心得違いであった。
 やはり、そなたはわしの上役じゃ。これからも、わしの振る舞いに至らぬところがあれば、厳しく叱ってくれ」
「ありがたきお言葉にございまする」

11月のNHK杯囲碁トーナメント

 3日は、井山王座に洪5段が挑みました。
 大阪の二人なのですが、なぜか解説は金秀俊9段。
 金先生の解説を久しぶりに聞いた気がしましたが、割と無難に纏められていました。両者の棋風についてのコメント、それが反映された着手の指摘は良いですね。
 白の井山王座が3隅を取って地で先行した辺りで、洪先生は望まない打ち込みをして攻められる被告席に立たざるを得なくなりました。この辺のイニシアティブの取り方の上手さに関する解説は非常に的確だったかと思います。
 打ち込んでイニシアティブを取るのではなく、打ち込まざるを得なくさせて取るという所がアマチュアには難しいのです。
 黒の洪先生は、それでも終盤まで持ち込みましたが、途中で地合いが足りないのがはっきりしてきて、どこで投げるか考えられているのかなと思ってみていましたが、やはり頃合いを見て投了。放送時間を考えて、あまり短くなりすぎないように配慮されたのかと思います。
 洪先生も今はかなり打てていると思うのですが、やはりと言うか井山王座には勝てませんでした。

 10日は今度は関西棋院同士。村川九段に呉柏毅六段が挑戦。一度も勝った記憶がないという呉六段でしたが、中盤、下辺で石が競り合ったときに右側の黒にカケて出させて、その調子で自分も出た手段が良かったようで、それまで黒勝率80%の局面が白勝率70%まで一気に逆転しました。後は手堅く打ち進めて村川九段の投了となりました。
 小池7段の解説でしたが、昨年に続いて地味地味ですが、割とうまく解説されていました。近年の戦績が良い人は、やはり手が見えていますね。
 余談ですが、14日に安田さんが今季2勝目を新人王戦で挙げました。おめでとうざいます。でも、11月半ばに今季2勝目って‥。頑張ってください。
 また、同じ日に村川九段が名人戦最終予選決勝を勝って久々(5期ぶり)のリーグ復帰を決めました。これで、来年以降も解説に無事にご登場いただけそうです。

 24日は、伊田、依田対決。解説が石田本因坊、聞き手が安田さんと、田の付く4人が揃いました。で、対局者は読み仮名が二文字、解説と聞き手は三文字。まぁ、田の付く名前は多いとは言いながら、これだけ集まるのは確かに珍しい。
 碁のほうは予想外に渋い碁になりました。石田解説者も伊田九段の切った貼ったを依田先生がどう捌くかの碁と予想していましたが、全然そうなりませんでした。
 中盤に入った辺りで左下の折衝で伊田九段に読み違いがあって中央の6子が切り離されて白の厚みのなかに置き去りになって頓死。「失敗したなって顔してますね。わりと顔に出るタイプなんですね」とは石田解説者。
 しかし、白の依田先生が黒の右辺に打ち込んだ手段が重くて、ここで形成急接近からAIによると逆転しました。打ち込んだ瞬間に、「この手段は重いですよね」とは、やはり石田解説者。AIが昭和の棋士の石の効率の感覚に同意するのは初めて見たかも知れません。どっちを褒めるべきか良く判りませんが。AIの形成判断が石の効率を含んでいるということは認識を新たにしました。
 碁のほうは伊田先生が勝ち切りました。依田先生のヨセに不手際があったようで、終盤で差が開いたようです。数年前に清成-依田戦で解説の覚九段が「計数的な部分では清成先生の方が精確だね」と言っていたのを思い出しました。当時は覚理事長と依田先生の対立が深刻だったので、嫌みで言っているのかと思ったのですが、確かに一時代を成した先生にしては不手際が目立ちました。
 12月の解説者に、その覚九段が登場します。また、ご贔屓の首藤八段が今期二度目の登場をするそうで、大いに歓迎しております。同じく関西棋院の瀬戸先生も二度目の登場。少数精鋭で回し始めましたかね?
 それとは別に本稿をアップするのが遅れていたら、藤沢里奈結婚の報が入ってきて驚かされました。相手は予想外の人でした。

 上野愛咲美立葵杯の呉清源杯優勝の朗報と共に女流囲碁界はおめでたいこと続きです。

ASLSK:S56:フランス軍を追撃するをソロプレイする

 先日のS38がシャーマン1台しか出てこなくて物足りなかったので、もうちょっとたくさん戦車の出てくるシナリオを追い求めてS56へ。
 フランス電撃戦からの切り取りですが、「near Paris」と非常にざっくりした場所しか書いてありません。
 SKは、原則としてSKに付属したユニットだけでプレイできるというのが売りで、本体モジュールを買う必要はありません。ところが、フランス軍って、どのキットに付いてたっけとしばし苦悩。
 シナリオ特別ルールを読んだら、歩兵はアライドマイナーを使え、ルノー軽戦車は拡張キット1に付けたイタリア軍のを使えと書いてあります。
 うーん、結構、探すのが大変。それにSKの拡張やボーナスの全てを買っているかどうかという問題もあります。
 シナリオ特別ルールに記載はありませんが、ドイツのエリートもSK3と拡張1には存在しなくて、BGGの画像データをチェックしました。答えはSK1に入っていました。なので、SK1を発掘して切断済みのドイツ軍ユニットのパックから探し出しました。
 うーん、今後SKの商品が増えていくと、これがさらに複雑になっていくのかと思うと、ちょっと憂鬱になりました。

 MAで本件話題になったのですが、フランスのルノー軽戦車はWW1で一定の活躍をして、戦間期に各国に輸出されたので本体のパラトルーパーにはドイツ軍色のが付いていたのだそうです。
 今回拡張1でイタリア軍色のが出てきて、ほかにありそうな物として本家フランス軍色、フィンランド軍色、日本軍色があり得ます。つまり、枢軸諸国の色は全部そろっているという稀有な連合国戦車な訳です。

 対するドイツ軍の戦車はⅢ号F型、Ⅳ号D型です。ここらへんの戦車でも正面装甲値が3とか4くらいしかないので、接近すればルノー軽戦車でも撃ち抜けてしまいます。
 なので、ルノー軽戦車でそれほど力不足は感じません。
 ビヨバラの最初のシナリオと同じ、敗走する敵の追撃戦です。
 逃げるフランス軍、追うドイツ軍。ドイツ軍の増援がフランス軍の退路を断つように側面から侵入してきます。

 Ⅳ号戦車って高速旋回砲塔なので、バウンディングファイアー時のペナルティが低いので逃げるルノー軽戦車を後ろから撃って当たると面白いように炎上します。

 ただ、フランス軍の退路を断つためにフランス軍を追い越そうと思うと、林ヘクスを突破する必要が出てきて、生まれて初めてボグチェックをしました。走行不能リスクは高いですが、林に入るのに半分移動力ではなく全移動力を選択すれば、まぁ通れるものなのですね。勉強になりました。

新プロジェクトX:未完150年悲願の海底トンネルに挑む トルコ潮流との闘いを見る

 個人的には、「地下鉄サリン事件」以来、久しぶりに見ました。
 概して土木系のトピックは迫力がありますが、今回も期待に違わぬ見応えでした。
 日本とトルコの友好関係については、映画「海難1890」に詳しい所です。

 

bqsfgame.hatenablog.com

 そんなこともあってか、マルマライ海峡を通る海底トンネルによる地下鉄はトルコの悲願となっていましたが、ボスポラス海峡は潮が強く予測困難でもあり、どこの国のゼネコンも受けなかった中、ついに日本の大成建設がトルコとの混成チームで引き受けることになりました。
 まず、ボスポラス海峡の潮の挙動を予測するシミュレーションの作成からスタートしたと言うから気の長い話しです。

 ご存じの通りボスポラス海峡黒海と地中海を結ぶ唯一の海峡で、両者の海面の関係によって激流が一方から他方に流れ込む特性があります。これを予想するシミュレーションを任されたチームは黒海側の気圧の影響が大きいことを見出すまでに大変な苦労をします。
 また、海底トンネルと言うと、シールドマシンで掘削するイメージが強いのですが、マルマラでは海底地盤が悪いので潜函を予め組み立てておいて海底に沈めて接続する沈埋工法が選択されました。この潜函を沈めて設置する時に潮に流されてしまうと許容誤差を越えてしまうというのです。その許容誤差、なんと8cm!
 潮流シミュレーションチームが明日の午後には潮は止むと予言し、最初の1号潜函が設置される日が来ました。果たして予言通りに潮は一気に弱くなりチャンスが訪れます。しかし、潜函沈降中に潜函に設置されたセンサーが損傷して正確な位置を把握できなくなります。止む無く現場責任者、木村は自ら潜函へと降りて修理と、位置補正指示をすることを決意します。海底60mに沈んでいる真っ暗闇の潜函へと猿梯子を下りていくとき、潜函が軋む音が聞こえて、どこかで漏水していたらという不安が過ったと言います。それでも、誰かに潜れとは言えないし、自分の目で見て位置補正を指示したかったと言うのには、土木エンジニアの意地を感じました。
 その頃、工期の遅れがどんどん拡大するプロジェクトに対して日本本社では現場責任者の交代を要求する声が高まっていたというのですが、リーダーの小山は黙って受け止めて一切、下には相談しなかったそうです。

マイティ井上死す

 プロレスラーの訃報です。2月のオレイ・アンダーソン以来です。

 国際プロレスのエースの一人。海外流出したIWAのベルトをNYの悪役帝王になる直前のスーパースター・ビリー・グラハムから逆さ押さえ込みで奪回。

 この試合の詳細については下記のサイトがわかりやすいです。

IWA世界ヘビー級選手権試合 ビリーグラハムvsマイティ井上 - From 神戸芦屋西宮

 中あんこ体型ながらサマーソルトドロップで観客を湧かせ、浜口との和製ハイフライヤーズの連携は日本プロレス史上に残る名タッグだったと思います。

 国際崩壊時に吉原社長に「新日本に行ってくれ」と言われたのを断固拒否して馬場の下へ。しかし、その後の大量離脱で全日本はガタガタになり、さらには離脱したノアもTV中継がなくなって衰退。結局、吉原社長の見る目が正しかったのかと、この人は思っていなかったのでしょうか。

 意外にキレやすくパイプ椅子を持って暴れることも多く、また美人の奥様も有名だったりしました。

 いずれにせよ昭和プロレス黄金時代の役者が、また一人、星になりました

 ご冥福をお祈りいたします。

無能の鷹を見る

 10月期ドラマが11月中に終ってしまうのは、非常に珍しい。どういう事情だったのでしょう。時間枠が良くないので視聴率は低調だったようですが、見逃し配信視聴数は非常に好調で、ネットでも好評だったとのこと。ですから、打ち切りという訳ではなさそうです。
 小生も全話みましたが、割と楽しく見ることのできる肩の凝らないお仕事ドラマでした。
 菜々緒のダメ社員と、一条天皇(塩野英久)の弱気社員のデコボココンビが、それなりに成果を挙げていく様は悩めるZ世代社員には、結構、爽快に映ったのではないかと思いましたが‥。
 特に東武ワールドスクエアの会などは、全盛時のアンジャッシュ(もう見られないですね)の勘違いコントのような上質のコメディでした。根本ノンジさんって、デキル脚本家だと改めて思いました。

ヴァンパイヤーコレクションを読む

 図書館。

 別件の検索で、バージル・コッパーが引っ掛かり、彼の作品をなにか読もうと思ったら本書に入っているというので。
 借りてみたら600ページ近い大冊。そこで、3部に分かれている最後の第3部「現代によみがえるヴァンパイア」だけ読みました。それでも200ページくらい。
 △ヴラド伯父さん
  吸血鬼のモデルと言われるヴラド串刺し公の親族の青年の話し。
 ☆ドラキュラ伯爵
 映画俳優、コメディアンでもあるウディ・アレンの作品。ドラキュラ伯爵が、皆既日食を夜になったと間違えて昼間に起きて街に出てきてしまい、日食の終了に慌ててクローゼットに隠れるというコメディタッチの一編。
 〇十月の西
 ブラッドベリーが、ヴァンパイアの血族を扱ったシリーズを書いていたとは寡聞にして知りませんでした。
 ☆闇の間近で
 スタージョンです。スタージョンらしいストレンジテイストですが、あまり怖くはありません。
 ☆デイ・ブラッド
 ゼラズニイです。吸血鬼が人間を捕食する生態系の頂点にいる訳ですが、その上に吸血鬼を捕食するものもいるのでは‥というゼラズニイらしい着想の一編。敵の敵は味方なのですが、食べ物である吸血鬼が減ると困るのでそのものが人間のヴァンパイアハンターを仕留めて回るという‥。

p514

 彼はその土地に住む美女、イレイン・ウィルソンを好きになり、彼女のもとに通いつめるようになった。たちまちイレインは例の昏睡に陥り、ノスフェラトゥに変身してしまう。確かに、吸血鬼はあまり多くない。俺個人の考えでは、もう少しいたっていいとは思う。だが、プロドスキィの場合、人口問題のプレッシャーからあんな行動をとったわけじゃない。

p519

「いったい-」それが彼の最後の言葉だった。

 オブライエン師が朗読をやめ、聖書ごしにこちらに視線を据える。

「あいつらのために働いてるのか?」

「全然」俺が言う。「だが、俺には連中が必要だ。俺の命の血だ」
 〇死にたい
 自殺したい吸血鬼が、その強力な特殊能力のために死ねずに困って相談に乗ってもらうという話し。相談相手はなんと狼男で(笑)
 ☆読者よ、わたしは彼を埋めた!
 お目当てのベイジル・コッパーです。クトゥルフ神話体系にも作品が入っているというだけあって、おぞましい怪異に遭遇する話しです。シーマンみたいに吸盤状の口で羊や人間の腹に嚙みついて全身の血液を吸いだしてしまうというナメクジに吸血鬼の頭が着いた妖怪をうっかり追ってしまい、決死の思いで退治して埋めてしまうという話しです。いや、退治できて本当にホッとさせられました。

p534

 ここ数年、数多く発表されてきた吸血鬼関係のノンフィクションのなかで、1973年に刊行されたベイジル・コッパーの「伝説の中の吸血鬼、その事実と芸術」ほど取り扱う範囲が広く、調査が行き届いていて、楽しめる本は、ほかにないだろう。

p539

「こんな症例に出くわしたのは、はじめてだ」と、クィンティンはいった。「健康で栄養の行きとどいた羊たちの身体から、血が完全に失われていた」

p548

 鋤を手にまえに進みでると、わたしは長くてぬるりとしたナメクジ状の生物が波打ちながら草原を横切っていくのを目にして、いいようのない恐怖をおぼえた。白い胴体はねばねばした液体に覆われて光っており、その先端にはドクター・アーヴィングの頭がついていた。小さい歯が並んだ吸引口で、羊の下腹にむしゃぶりつこうとしている。
 ×出血者
 キングやクーンツと言った現代ホラーの巨匠が敬愛するというリチャード・レイモン。惹句が強すぎて期待外れに終りました。
 ×ドラキュラ-真実の物語
 ドラキュラに拉致監禁された人物が逃走を試みるショートショート。たった4ぺーじなのに、それなりにドキドキさせる腕前は大したものですが、オチはいただけませんでした。