司政官シリーズの第2短編集の表題作です。
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「司政官全短編」の作中時間順に従って読み始めました。
「長い暁」は、1980年にSFマガジンに短期連載された中編です。
司政官制度の黎明期、まだ連邦軍と司政官の関係も明確ではなかった時期に、ヤトウPPKキーンは、着任したミローゼンにおいて連邦軍と共に原住民文明の調査に赴きます。ここでは丁度原住民同士の戦争が始まる直前でしたが、原住民から戦争が起こっても一切どちらにも加勢してはならないと強く言い含められます。しかし、調査団長のオットーランドBBは、攻撃を受けて招待してくれた原住民側が劣勢になるのを見て加勢してしまうのです。
このことによって調査団全員が死刑を言い渡されてしまうという、いわゆる連邦軍の「やってくれちゃった」話しです。
ミローゼンの文明は、いわゆる神託政治なのですが、窮地にあってSQはミローゼンの巫女になり替わって演技をして調査団を無傷で返すように神託をくだし、調査団は辛くも調査船まで逃げ帰ることに成功するという話しです。
これだけの話しを8か月に渡って連載したので、当時、読んでいて中身が薄い話しだなと思った記憶があります。司政官には、なんと言っても「消滅の光輪」という密度の高い傑作があるので、短期と言えども「連載」と聞いて期待過剰だったのだなと思いますが。
p141
ちょうど資料整理の作業が一区切りついたところだったヤトウPPKキーンは、二十分後にはそちらへ行けるだろうと答えた。
p143
六人とも顔なじみだった。
駐屯隊長のカーマインPSSロックボウBAと、副官のヘンゼルPSSオットーランドBB。それにギスクBCに、ミンライBC、ハーケンダインBC、シェドBC。
p144
ミローゼンに駐屯している連邦軍は人間60名、ロボット150体という小じんまりとしたものであったから、これだけのメンバーで充分運営して行けるのである。
p147
ヘンゼルBBは答え、ヤトウへ視線を当てた。「司政官、実は三時間ばかり前に、調査船が漂流中の原住民の船を曳航して、戻って来た」
「ははあ」
p151
なぜミローゼンの陸地がこんな風なのかについては、連邦軍の調査部門もヤトウのほうも、一致した見解を持っていた。気候が温暖というよりもむしろ暑いことと相まって、ミローゼンは現在、大海進の時期にあるのだろうというのである。それは、ここの現住者がどうやらみな共通の体型を勇士、言語も基本のパターンは似通ったところがあるのから考えても、かれらがかつて大陸に住み広くあちこちに住んでいたのが、海進によって高地へ高地へと追いやられた‥
p152
「そういうわけで、われわれは現住者との、いわば交渉団を送り出すことになった」
カーマインBAは、ヤトウに顔を向けていう。「漂流者たちを安全に故郷へ送り届ける一方、その島の主な現住者なりしかるべき組織なりとコンタクトを図るのだ」
p163
‥そういう風に考えると、ここにはありとあらゆる組み合わせがあって、しかも住んでいる人たちは基本的に同じなのだから‥いわば、自然に出来あがった社会学の実験場みたいなものだとは、いえないかしら」
p176
「もっと魚を呉れといっています」
ロボットが通訳する。
シェドBCには、現住者が使った単語によって、その前に分かっていたらしい。彼女は小さく頷くと、現住者を向いたまま、問いかけた。
「どうしてそんなにたくさん要るの? われわれが充分供給しているはずよ」
しかし、現住者たちは、納得できないという表情で、しばらく黙ったままであった。
p191
「かれらは分かるといっています。ここの景色は何度か通りかかったので覚えているそうです。これはナ・エ・サのダガで、ヤ・ゴ・デのダガではない。ヤ・ゴ・デはこの右手むこうに見えているから、そちらへ行けばダガノヤに着くとのことです」
p202
船は帆走をはじめた。
ダガノヤはいよいよ近くなって来る。
今では、ヤトウにも、ダガノヤがどういうかたちになっているのか、ほぼ見てとれるようになっていた。
p214
「私はリブヤのツ・エン・ニである、といっています。ふたりのタガノヤ人を助けてくれたことは聞いた。もっとくわしい事情を聞いて、どういう扱いをするか決定するために、クリブヤとあってもらわなければならない」
p227
「私はクリブヤのダ・レ・バンガである、といっています。タガノヤの住人にしてダガのメンバーであるふたりを救助し、連れてきてくれたことに対して、礼をいう、とのことです
かれらは、われわれに、仲間を助けてくれた外来者が得られる待遇をすべて与える、といっています」
p234
「では、どことたたかうのかね?」
「われわれは、おそらくあす、ジャチャの攻撃を受けるだろう、と、いっています
ジャチャはここから東北の方向、鉱山のかなたの、山を越えたところにあるそうです」
p240
「やはりあのダ・ガというのは、神殿のようね」
唄っているふたりを見ながら、シェドBCが誰にいうともなくいった。「すると、カルダガというのは、ダガなる神のお告げを伝える巫女の一種じゃないかしら」
p296
「カルダガが代わっても、官僚機構は継続するんだ」
彼も応じた。「そういえば‥戦闘員を限定して、そのほかのものに戦闘を許さないというシステムは、官僚機構を温存するための措置なんだ。無差別にたたかっては、こんな小規模の集団では支配階級が壊滅し、行政能力を喪失してしまう」
p314
‥とんでもない話だが、ダガにとりつかれダガの言を伝えている真似をしているのだった。神託をタガノヤの古語で申し渡す演技を行っているのである。
現住者たちは、あきらかに動揺していた。信じられないというようにSQを注視し、それから膝をついた。
p330
「それが当たり前ではないのですか? 司政官は英雄でないのが当然です。私の知っている英雄と司政官の定義には、共通の部分がほとんどありません」
「だろうね」