☆テスカトリポカを読む:ネタバレ注意

今年の直木賞受賞作です。

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すぐに図書館で予約しましたが100日以上待たされました。まぁ、仕方がないでしょうか。

圧倒的なパワーを持つヴァイオレンス・クライム・ノヴェルです。

血なまぐさいのは苦手なのですが、これは一気に読ませる力を持っています。

映画「ゴッドファーザー」や、「翡翠城市」に通じる面白さがあります。

メキシコの麻薬戦争、アステカ文明の生贄儀式、潰滅した組織の生き残りが新たに構築する臓器移植ビジネスという3つの要素が画面切り替わりで休む間もなく語られます。

特に最後の部分が本書の中心部分になるのですが、規模の大きいビジネスだけに登場人物が多く、少しややこしい。しかも一人一人がかなり深掘りされています。

ということで、整理のために人物整理をしておきます。

人物紹介だけですが丁寧に読むと大体のストーリーが判ってしまいますので未読の方は要注意。

ルシア

メキシコ北西部のクリアカンに生まれた少女。雑貨店を経営する両親の家計では進学できず家業を手伝っていた。しかし、ある時、ジャーナリストを名乗る二人組が店に訪れ、翌日、二人は三人の麻薬密売人を連れてやってきた。やがて二人は街はずれで死体で発見された。

そんな街から逃げ出すためにトラックの荷台に紛れ込み知らない行先のバスを乗り継いで出て行き、アカプルコまで辿り着いた。そこで日本と言う国の存在を知り、ビザなしで日本に辿り着いた。難波でラブホテル清掃員の仕事を得ることができ、そこのオーナーから雀荘を紹介されて一定の収入を得られるように。そこで知り合った川崎のヤクザを頼って大阪から上京しホステス兼愛人になった。

土方コシモ

2002年川崎生まれ。父は暴力団幹部、母は上記のルシア。母はスペイン語の聖書を息子に教えた。日本語は教えられず、結果として小学校に入学しても授業についていけなかった。暴力団排除条例によって家計は苦しくなり父はDVを揮うようになった。母も育児放棄に陥り、海を渡ってまで逃げた麻薬に逃避するようになった。

大柄に育ったコシモはバスケットボールに興味を持ったが本格的に練習する環境は得られなかった。

ルシアが客からもらった指輪を巡って両親は刃傷沙汰に至り、コシモは自衛のために父の持ち出した包丁を宝物のバスケットボールで防ぎ、バスケットボールを破壊した父を怪力で殺害した。

さらに幻覚症状でコシモを襲う母のこともコシモは撲殺してしまった。

年少に入って作業で手先の器用さを発揮するようになる。それに目を付けた矢鈴が彼をセラミカに紹介し、ナイフ職人として弟子入りさせた。

通称、「エル・パブティロ(断頭台)」

バルミロ・カサソラ

メキシコ北東部で2年に渡って続いた「ロス・カサソラス」と新興の「ドゴ・カルテル」の壮絶な麻薬戦争は、ついに一定の結論に辿り着いた。ドゴカルテルは無差別に近いドローン爆撃によってカサソラスを壊滅状態に追い込んだ。

カサソラス4兄弟の3人目であるバルミロ・カサソラは、敵の意表をついて西へ向かって太平洋へと脱出、そこからジャカルタへと密航して生き延びた。

ジャカルタでバルミロはキッチンカーを入手してコブラサテの屋台を始めた。彼は自らのことを「エル・コンシネーロ(調理人)」と名乗るようになった。

メキシコに戻ってドゴ・カルテルを倒すためにパラミリタリー組織の構築を目指して、まず資金集めから動き出す。

末永充嗣

ジャカルタコブラサテに立ち寄ってバルミロと知己を得た日本人。

優秀な心臓血管外科医。手術の重圧からコカインに依存するようになり死亡交通事故を起こして日本の医学界から追われた。しかし、今もなお現場に戻ることを夢見て、指先の筋力が衰えないようにボルダリングで鍛えている。オーバーハングに取り付く姿からスパイダーマンと呼ばれていたため、後にバルミロからラバラバ(蜘蛛蜘蛛)と呼ばれるようになる。

ジャカルタでは腎臓売却者の移植手術をして暮らしていた。しかし、バルミロと会って過去を明かし、心臓移植の現場に戻る夢を現実にするビジネスプランを組立る。

しかし、ビジネスが軌道に乗ってからバルミロに隠れてサイドビジネスで稼ごうとして不自然な金の流れを気付かれてしまう。

一方で、パラミリタリー組織育成を急ぐコンシネーロのことを現実離れしていると内心では相いれないものを感じていた。

野村健二

麻酔科医。重圧に苛まれる医師に麻薬を供給する大学の勤務医だった。

しかし、副業である医薬品の横領転売が露見して医療界を追放された。

末永も野村の顧客の一人だった。野村は金に困った腎臓提供者を末永に送り届ける仕事をしていた。

通称「エル・ロコ(奇人)」

宇野矢鈴

品川にある保育園「ライトキッズ小山台」に勤める未婚女性。

ブラック職場に抗議するストライキに参加せず少人数で子供の面倒を見るべく頑張っていた。しかし、努力も報われず不十分な保育環境に抗議する親からジュースを頭からかけられるなどしてストレスが貯まりコカインに依存するようになった。

体調を崩して闇医師の野村に掛かったことから闇社会に巻き込まれるようになる。シェルターへ子供たちを連れてきて面倒を見る役目を担うが、そこで本当は何が行われているかは気付いていない。

通称「マリナルショチトル(草花)」

増山礼一

川崎の仙賀組幹部。

野村の腎臓売却ビジネスをしのぎに使うインテリやくざ。

新たに休眠中のNPOを利用してグントゥルイスラミ、新南龍と心臓移植ビジネスを始めるため日本ブランドの子供の心臓を安定供給するためのシェルターを構築する。

座波パブロ

沖縄出身。川崎港にあるアクセサリー工房を経営している職人。

本書の登場人物には珍しく、沖縄に妻子がいる(後日譚で登場)。

通称「ラ・セラミカ(陶器)」

ペルーと日本の混血でスペイン語を話せる。

友人に見せられたナイフコレクションがきっかけでナイフ製作を志す。中卒でナイフ工場に勤務し、仕事はできたが、退職時に送別会もしてもらえず才能を搾取されていたことに気付く。

本土へ出てきてペルー人が集まる麻薬密売場でコンシネーロに声を掛けられた。工房を任され住居も与えられた。通称も与えられてファミリアの一員となった。

矢鈴に紹介されたコシモを弟子にして可愛がっていたが、スクラップ場へのお使いをコシモに頼んでしまい、その結果、コシモはスクラップ場でタラベロの奸計に巻き込まれ、そこからファミリアに入ることになってしまった。

伊川

通称「ラ・チャターラ(スクラップ)」。

178cm、154kgの肥満体に恐るべき怪力を秘めている。片手アームカールで105kgを上げることができる。中原区の自動車解体場で勤務し、スクラップを利用した自分専用トレーニング設備で常にトレーニングを重ねている。

テレビ取材事務所に勤めていたが上司のパワハラに激高して殺害。仮釈放中にスクラップ場の社長に拾われた。

コンシネーロとラバラバがスクラップ場に現れ、伊川の経歴を気に入ったコンシネーロにシカリオ(殺し屋)の第一号候補生として見込まれる。

宮田正克

上記のスクラップ場の社長。違法行為に場所を貸して稼いでおり、野村からコカインを買っている。

横浜の大学を出て消防士になったが野村からアイスを購入するようになり道を踏み外した。仮保釈中の伊川を雇ったのは、その怪力に目を付けてのことである。

暴力団とは関わらないポリシーを持っていたが、シカリオの訓練場所として目を付けられてしまい非合法ビジネスに巻き込まれた。

仲井大吾

宮田の後輩。川崎の消防士でボクシングで国体に出場した。大麻所持で逮捕、免職となり半グレ集団に入る。シカリオ候補者としてスクラップ場に雇われた。

通称「エル・マムート(マンモス)」

大畑圭

相模原の暴走族。板金工。居酒屋の喧嘩で三人を死傷させ、スクラップ場に辿り着いてシカリオ候補者となった。

通称「エル・カスコ(ヘルメット)」

フラビオ・カワバタ

通称「エル・タラドロ(電気ドリル)」。

スクラップ場の従業員。日系ブラジル人。チャターラーの強さをしたっている。

スクラップ場での銃射撃訓練を見て、自分も銃を撃ちたいと思ったが許されなかった。そこで一計を案じ、お使いに来たコシモに番犬を鎖から解き放って襲わせ、それを助けるべく犬を射殺するというシナリオを描いた。しかし、番犬は危険な香りのするコシモではなくタラドロを襲ったために失敗。事情を知ったコンシネーロに、生贄として生きながら心臓を刳り貫かれて殺された。

 

荒ぶるアステカの神の話しですが、エピローグでカサソラス4兄弟に神話を語って聞かせる祖母の語りは、まるで「にほんむかしばなし」なのに驚きます。