☆暗号解読を読む

bqsfgame2005-08-13

フェルマーの最終定理」でベストセラー作家となったサイモン・シンの第2作。
暗号解読書と言うと中学時代に読んだ物が面白かった記憶があり手に取った。この本はいくつかの側面を持っている。
暗号技術の進化史という側面。暗号が歴史に果たした役割という歴史秘話の側面。暗号に賭けた歴史の表に出てこない人たちの発掘という側面。現代社会における暗号の重要性を説く啓蒙の側面。
特に面白いのは技術進化史と歴史秘話だろう。単字式暗号に対する頻度分析のあたりまでは知っていた話しでさらさらと読み進んだが、ヴィジュネル暗号による頻度分析の打破が最初の山場。
そしてWW2に向けてドイツのエニグマ暗号機の登場がクライマックスだろう。特に戦史に興味のあるヒストリカルウォーゲーマーの人には隠れたドイツの新兵器として是非とも読んで欲しいエピソードだ。ドイツの新兵器、電撃戦を支えたのは無線機だという見解はウォーゲームでも見掛けるが、その無線連絡の秘密性を確保するための暗号は重要なベターハーフなのだと認識させられた。
さらに、この難攻不落の暗号を必要性に迫られて解読するキッカケを見出したのがポーランドだったというのはビックリした。そして、そこからイギリスに技術は渡り、バトルオーバーブリテンやウルフパックを巡って暗号は戦史の裏側で恐ろしいほどに重要な役割を果たしていた‥という。そして、暗号解読のためのチューリングの計算機が出てきて、暗号戦こそがコンピューター技術を最初に生み出す必要の圧力だった‥と繋がると圧巻である。
5章では打って変わって古代言語の解読の話しに移る。暗号解読と技術的に通じるところのある浪漫溢れる仕事の魅力が語られる。これと合わせて言葉の壁を利用したWW2の米軍のナヴァホ暗号が紹介される。
6章と7章では、鍵伝達という暗号のネックを解消し、暗号を公的に利用できる技術にする新たなブレークスルーが語られる。これが現在のインターネットの通信のセキュリティー確保の話しへと直結している。そして最後の8章では量子技術にまつわる近未来の暗号の話しが紹介されて終わる。
重厚長大な作品だが、読むべき価値はそれ以上にあると思う。特にウォーゲーマーの人には4章までがお薦め。古代戦フリークなら5章も面白いと思う。個人的にはコンピューター技術には関心がないので、6章以降はそこまでは入れ込まなかった。しかし、暗号に関する古今のトピックスを網羅したスゴイ仕事だと思う。