☆渇きの海を読む

bqsfgame2017-06-27

ACクラークの近未来ものの一つです。
ザ・テクノスリラーです。1977年の文庫初版発売直後に読んで以来の再読だと思います。40年ぶりですか‥(^_^; 多少、記憶が美化されていた部分もあったのですが、特に失望することなく読み応え十分でした。
本書の原題は、「ムーンダストの落下」です。月面観光遊覧船が、渇きの海で発生したガス上昇によってムーンダストの海の中に落下してしまいます。それを発見、救助するテクノスリラーですが、ムーンダストとの技術的な戦いが最初から最後まで主眼にあります。
液体のように流れ、固体並みに汲み出すのが難しいムーンダスト。その中に沈んでしまうと、電波も空気も届きません。ですので、SOSを出すこともできず、レーダーで見つけてもらうこともできず、船内空気の炭酸ガス濃度が限界に達するまで数十時間しかありません。
衛星軌道から月面を監視していた偏屈な学者が、サーモトレースで遭難位置を発見したのが解決の第一歩になります。当初は、食料ネックで数日単位の余裕があると思っていましたが、炭酸ガス濃度の上昇で時間単位の余裕しかないことが明らかになります。そのため、まず沈んだ船内に吸気、排気管を通すことに。それを達成して、さぁ脱出管を設置してと言う所で、ある見落としによって第二の落下が発生します。
幸いにして第二の落下の規模は小さく、作業を再開できました。ところが、いざ脱出直前になって、ある見落としから船内で火災が発生、最後は秒単位の脱出劇となります。
まぁ、書いてしまえばそれだけのことなのですが、それを一気に読ませる筆力はさすがです。クラークはSF作家としては一流ですが、小説家としては当り外れがある印象を受けます。本書は、その当りの方で、(クラークにしては)人物造形の魅力もあります。日本ではクラークは遠未来ものの評価が高いように思いますが、本書は近未来物の傑作の一つです。ハヤカワ文庫名作セレクションに入って2005年に再版されたのも納得の出来栄えです。
半世紀以上前の作品になりましたが、これぞテクノスリラーと思います。お薦めです。