☆翡翠城市を読む

 ハヤカワ新SFシリーズ。

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 書店で見掛けて、タイトルとジャケットに惚れこんで、で、図書館で借りました(笑)

 これは会心作でした。

 リーダビリティ自体はもう一つです。どうしても未知の地名、人名が大量に出てくる作品は、読んでいて迷子になりやすいのです。

 それでもジャンルーンの市街地図が見返しに用意されているので、だいぶん助けられました。

 「21世紀版ゴッドファーザー」という紋切り型の説明には、かなりの妥当性があります。

 個人的には冒頭部分では、超能力と濃い血族という点で、大原まり子のシノハラコンツェルンを連想しました。

 しかし、主人公側の若き「柱」が暗殺された辺りからは、圧倒的に「ゴッドファーザー」感が強くなりました。

 翡翠を付けることで種々の超能力を発揮できるグリーンボーン。そのグリーンボーンの2大勢力が対峙する翡翠生産地、ケコン島の首都(?)ジャンルーン。

 主人公側の無峰会は、若い柱コール・ランが率いており、その武闘派部隊のトップ(角)を弟のヒロ・ランが支えています。二人の妹のシェンは、政治センスも経済センスも優れていますが外国人の彼氏と駆け落ち同然に海外へ出て行っていましたが戻って来ます。

 ライヴァルの山岳会は、冷血な女帝アイトに率いられ、その角を凶悪なゴントが務めています。

 両者はジャンルーンを二分しており、小さないざこざは日常茶飯事なのですが、その一つをキッカケに互いに相手の息の根を止めんとする過激な抗争へと突入します。

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 二人の兄弟、コールとヒロは、ゴッドファーザーの兄弟(ソニーとマイケル)とは性質が逆です。コールは冷静な政治家で、ヒロは激情型の武闘派です。兄弟たちが可愛がっている養子として、アンデンが登場し、彼が重要な役目を担っていく所もゴッドファーザーライクです。

 ネタをバラしてしまうのは勿体ないので、是非とも現物を読んで欲しいと思います。二段組600ページは重量級ですが、決して長すぎるとは感じないと思います。

 終わり頃にはジャンルーンの地区名を聞くと、どこらへんにあってどういうビジネスが盛んで、どちらのファミリーのテリトリーなのか言えるようになっていることでしょう。

 本作は三部作の冒頭で、次の翡翠戦争は既に原書は発売済みだそうです。順調に訳されることを期待します。