☆香水を読む

bqsfgame2005-04-30

1987年の世界幻想文学大賞の受賞作。ジュースキントは非常に寡作らしく聞いたこともなかった。
18世紀の衛生状態が悪く悪臭が立ち込めるパリから物語りは始まる。この悪臭のためにフランスでは香水が珍重され香水文化が発達したと言うのは周知の通り。この物語は自身に体臭がなく、超能力と言って良いほどに嗅覚が優れた一人の不思議な男の奇怪な物語。
誕生時から人に疎まれ、それでいながらしぶとく生き続ける。優れた嗅覚により香水師の徒弟に入り師匠を大変な成功に導くが、本人の野心はそんな俗物的なところにはない。
人間の匂いを嫌って隔絶した仙人のような暮らしを送ったかと思えば、世間に戻って致死液説の例証として持てはやされたりする。自らの理想の匂いを固定することを求めて抽出法の限界から液浸法を身に付けるために再び徒弟に入る。そして、処女の匂いを固定するために‥というクライマックス。最後は匂いの超絶的な威力を魅せ付け、消えてしまう。
あまりに奇怪な異形の物語。だが、変質的な部分や殺人の場面もありながら、不思議に上品にまとまっている感じもある。同じ賞を受賞している「奇術師」と感覚を共有している部分もある。時代、独特の文化、現実と虚構の溶解、理解しがたく魅惑的な主人公。
世界幻想文学大賞の選択の確かさを感じさせる無名作家の傑作長編だと思う。