○クリスタルサイレンスを読む

bqsfgame2006-08-05

読んで吃驚、これがデビュー長編かと瞠目させられた。圧倒的に魅力的なSFガジェットの数々、全体のバランスも良く、完成度もデビュー長編としては凄いだろう。これを読んでしまうとしばらく前に読んだ「啓示空間」のアリステア・レナルズなど大差と思え、レナルズの次のカズムシティが訳出されたようだが食指が伸びなくなってしまった。
縄文古代文明のミステリー、テラフォーミング中の火星で発見された地球外生命の謎というところから話しは始まる。火星での地球諸勢力のパワーゲーム、暗躍するサイバースペースのダークパワー。さらに、ナノテクノロジー、重力制御技術、結晶生命体‥。次から次に近年のSFガジェットの売れ線のところが登場して話しが拡大していく。
SFガジェットを網羅して大作を書ききったという点ではレナルズも同じなのだが、魅力度が決定的に違う理由はどこなのか? あとがきを読んで納得したのは、作者の「キャラクターより舞台設定の方をまず考える」という発言。レナルズ作品がどちらかというとキャラに阿っており、それを助長するかのようなキャラクターイラストが付いていることが、「啓示空間」を悪い意味で軽くしてしまっている。「クリスタルサイレンス」の主人公サヤ、恋人のケレン・スー、悪役のツカダ、ネットワーク生命体のゴブリンにブレイン、サイボーグ兵士のタランチュラなど、キャラクターは多く、魅力的なものが多い。しかし、キャラに依存してキャラへのご贔屓になってもらって読み進んでもらおうなどという作りではなく、あくまでストーリーと舞台の魅力で読ませようとしている。その部分のしっかり具合が全然違うような気がした。
今回は図書館で借りて読んだのだが、この水準なら藤崎作品は全てミズテンで買っても良いと思った。「ソリトンの悪魔」以来、久しぶりに日本SFでケレン味なく傑作と断言できる大作を読んだ気がする。