☆反対進化を読む

bqsfgame2008-10-27

つい最近でたばかりと思っていたら本屋にない。届いて奥付を見てみたら3年半前の本だった。最近の出来事が「最近」という大雑把な区切りで圧縮されるようになったのは、やはりトシなのか‥(^_^;
「フェッセンデンの宇宙」も素晴らしかったが、中村融氏の編によるSF版ハミルトン短編集である本書も素晴らしい。
全体のトーンとして思うことは、大戦やその後の核戦争の危惧などを背景に、人類に対する懸念のようなものが強く感じられる。特に表題作はそうだと思う。
「アンタレスの星のもとで」は、物質転送機の実験でアンタレスに送られ、そこでヒロイックファンタジーのような活躍をして帰って来るという物語。この短編を読んでTSRの「アンタレスの反乱」を思わず発掘してしまった。念のためだが、両者には何の関連もない。続編が二本ありファンの熱意で本にまとまっているのだという。クラシカルだが、いま読んでも面白く感じられるので、こういった冒険譚はエンターテイメントの基本的な要素なのだろうと思う。
「呪われた銀河」は、生命は銀河にとってウィルス疫病のような存在で、それを理由に宇宙は銀河を中心に膨張して銀河から離れようとしている‥というネタ。人類だけでなく生命全体に対するシニカルな視点の一作。
「ウリオスの復讐」は、一種の不死人テーマ。アトランティス大陸を滅ぼしてしまった古の支配者が、その原因となった妻と愛人を追って復讐を遂げる。時代を次々に越えていく壮大な復讐譚で、なかなか読み応えがある。
「反対進化」は、地球上の生命は宇宙に散った知的単細胞生物が地球に土着して退化していった結果だとするシニカルな一作。冒頭にも書いたが本書の作品群の全体に流れる人間に対するハミルトンの失望を感じさせる。
「失われた火星の秘宝」は、キャプテン・フューチャーと同じ世界を舞台にした非フューチャーメンもの。探検家が火星の秘宝を発見、そこにギャングたちがやってきて、その魔手から逃れるために一計を案じる。小品だが面白く、この世界にはフューチャーメンの手を煩わせるほどではない様々な事件やサスペンスが他にもあるのだという広がりを感じさせてくれるところが良い。
「審判の日」は、核戦争後に地球に帰還した宇宙植民地の二人。その二人を迎えたのは核戦争で突然変異した非人類のヒューマノイドたち。二人は地球を滅ぼした種族の末裔として審判にさらされる‥。これも核戦争の懸念が深刻だった時代の陰鬱な雰囲気を表しているように思えてならない。
超ウラン元素」は、人工的に核融合で新元素を作っていくと、あるところで新元素自体が新生命体となって活動を開始、この新規で強力で幼い生命体を人類のために倒すと言う小品。ラストの人類が核物質生命体の幼い命脈を絶つ資格があるのか?‥という問い掛けが、これまた人類に対するアンチテーゼとなっている。
「異境の大地」は、植物から抽出した薬物を注射すると体感時間が低速になり植物の生命活動や競争を動物のものであるかのように体感できるというアイデア。これにより植物たちのことを理解できるようになったヒロインの兄を、正常(?)な生活に引き戻そうと試みる話しなのだが、どちらが正常かは見解の相違だという風に感じさせるところが本書全体の通奏低音
「審判のあとで」は、宇宙開発の前線基地で故郷からの連絡が途絶してしまった状況を描く。そんな状況下でアンドロイドたちによる惑星探査を継続しているのだが、最後にアンドロイドたちに人類の存在していた証を宇宙に広げるようプログラミングして登場人物たちは去っていく。
「プロ」は、息子が本当に宇宙飛行士になって飛び立って行くことになったSF作家の父親の心情を間接的なメッセージで描き出す作品。この小品が意外なほどに悲痛なものに響くのはなぜなのだろうか?